昨今注目されている「従業員リソースグループ(以下、ERG:Employee Resource Groups)」とは、会社の中で共通点をもつ従業員により構成される組織を指します。仕事のプロジェクトなどとは違い、様々な目的や興味、テーマのもとに自主性をもって従業員達が集まるのが特徴です。会社側からしっかりサポートされているERGであれば、様々な問題解決の際もダイバーシティ&インクルージョンの強みを活かし、多様な顧客のニーズに応えることが可能で、またその会社の理念や価値観と共鳴してくれる顧客へのアピール戦略においても力を発揮します。社内でERGが活躍できる環境を育てることで、職場習慣の改善や従業員の意欲向上、従業員の離職率を下げることに繋がります。さらにこうした活動を通じて、社内における人脈作りや社内コミュニティの構築、キャリアアップへの機会などを従業員に与えてくれるのです。その結果、ERGを効果的に運営することで生産性が向上しイノベーションが促進され、会社全体の業績と活気が上向きになっていきます。実際、「フォーチュン500企業」の90%が、DEI戦略の一環としてERGを取り入れています。
マイクロソフトで成功したERG
マイクロソフトのERGは、成功事例の一つです。同社の「Racial Equity Initiative(人種 に対する公平性推進の取り組み)」は、偏りのない採用、地域社会への働きかけ、人種的公平性に重点を置いており、あらゆる社内階層においてインクルージョンを根付かせるというマイクロソフトの理念と一致しています。この戦略では、人種的マイノリティに焦点を当てたリーダー向けのDEI教育研修プログラムが中心となっています。また、マイクロソフトはデータに基づいた対策を行っており、黒人従業員に対する給与の公平性や昇進・昇給のデータを把握することで、ERGの活動が確実な成果につながるよう後押ししています。こういった努力により、黒人およびラテン系従業員からもリーダーに選ばれるケースが増えており、同時に従業員満足度も上昇。更に76%の従業員が「マイクロソフトで成長を実感している」と回答するまでになっています。

職場でのDEI浸透が黒人にとってベネフィットをもたらすと考える割合
Credit: Majorities of Americans say DEI practices help Black men and women in the workplace, Pew Research Center, Washington, D.C. (November 18, 2024)
成功の条件は会社側からのサポート
ERG活動を行う過程ではいくつかの課題が浮上してきますが、その1つは「会社からの承認を得ること」です。会社側からの支援がなければ、ERGの十分な活動と目標達成は難しくなります。一方で、言うまでもなく、会社は収益を上げることを目的として存在しています。ERGリーダーは、このような自主グループが従業員のモチベーションを高め、結果的に会社の収益性向上につながるという点を会社側にしっかりと示し、存在と活動を認めてもらう必要があります。ERGリーダーは、実現可能な達成目標を会社に対して明確に提示し、従業員アンケートなどの具体的なデータを示していくことで、ERG活動がどのような良い影響をもたらす可能性があるかを会社側に伝えていくことができます。
ERGがうまく進まない原因でよくあるのは、各ERGのリーダーやDEI関連部署、人事部門とのコミュニケーションが不十分であるケースです。社内にまだDEIが浸透しきれてない場合などは、多様なバックグラウンドを持つ従業員たちはどうしても孤独感を抱き、仕事へのやる気も低下してしまう可能性があります。また、ERG自体の目標が明確でなかったり、活動内容がメンバーのニーズや期待と一致しないことも運営を難しくする要因となります。これは、アマゾンの例を見ると良く分かります。 同社は女性従業員のために、「Women@Amazon」という「共通の興味や背景を持つ女性たちが集うアフィニティグループ」を推進しています。ところが、3人の女性従業員が性差別および会社からの報復的行動で同社に対し集団訴訟を起こしており、社会的にも批判にさらされています。さらに、最近発表された「出社完全義務化」の決定は働く母親やひとり親の家庭に大きな打撃を与え、会社への不満が膨らみ、多くの従業員が退職を検討する引き金となっています。
重要なのは「活動資金」
フォーブス社は企業に対し「ERGを成功に導くための戦略」を示しており、その1つに「十分な資金を確保すること」としています。ERGに十分な資金が提供されれば、時間とエネルギー使ってERGと会社の目標達成に従業員が集中することができます。また、メンターシッププログラムなどを通じ、ERGのリーダー達が上級管理職のメンバーと対話する機会を作ることで彼らのモチベーションを高め、常に高い視点を維持し成長し続けられるようにすることも重要としています。
トップダウンによるERGサポートの成功例として、アディダスグループのERGフレームワークが挙げられます。同社は、ERG活動に費やす時間に対しても報酬を支払い、彼らが本来の業務とERGタスクの両方に集中できるようにしました。アディダスのDEI戦略に沿った同社ERGの1つ「United Voices ERG」は、多様なコミュニティをサポートし、異なる背景を持つ社員の声を取り上げることを目的としています。このERG活動において従業員達の意欲が向上し、上級管理職が参加する社内交流イベントを通じてこのグループの取り組みと企業トップとを直接結びつけることができました。
社会全体として見れば、インクルーシブな職場づくりはまだ道半ばです。しかし会社がERGに資金と時間を投入し、必要な支援をしっかり行っていくことで、すべての従業員にとってよりインクルーシブで生産的な、そして成長可能な未来が築かれていくのです。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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