昨今のグローバル化に伴い、世界中でサードカルチャーキッズ(Third Culture Kids、以下TCK)が増えています。TCKとは、学齢期の大半を両親の国または自らの国籍がある国以外の文化で育った人々のことを指します。「Third Culture(第三文化)」とは、両親の文化(第一文化)と移住先の外国文化(第二文化)とが融合した独特なブレンド文化であり、彼らの世界観や個人のアイデンティティに大きな影響を与えています。
「サードカルチャーキッズ」という言葉は、アメリカの社会学者であり人類学者でもあるルース・ヒル・ユシームによって生み出されました。海外で育った彼女自身の子どもたちや、同じような環境で成長した他の子どもたちのことをこの言葉で表現したのが最初です。TCKには、外交官や軍関係者、海外駐在員、または国際ビジネスに従事する親を持つ子どもたちが多く含まれます。国際的な環境で多くの文化や価値観に触れながら成長するため、彼らのアイデンティティには、多文化の要素が大きく反映されていきます。国際的な感覚やスキルが身につく良さがある一方で、いくつかの課題に直面することもあります。
サードカルチャーキッズが直面する困難
その一つが、「アイデンティティの混乱」です。TCKは親の仕事の都合で転居を繰り返すことが多く、友達との絆をじっくり築いたり、安定した環境に長く身を置いたりすることが難しくなります。その結果、自分は結局どこの文化にも属さない中途半端な存在だと感じてしまうことがあります。「自分はどこから来たのか」「どこに居場所があるのか」が曖昧で不確かであるという感覚に陥り、苦悩します。更に、生まれ故郷である母国に帰国した際に「Re-Entry Shock(逆カルチャーショック)」を経験することがあります。移住先の外国で慣れ親しんできた規範や習慣が、母国のものと違うのを目の当たりにして衝撃を受けてしまうのです。この「文化の狭間」に陥った感覚は、感情的に思い悩んだり、孤独感を生む要因ともなります。
TCKがこういった困難を乗り越え成長していくためには、親が意識的に、今置かれている環境や文化とのつながりを持たせるようにすることが重要です。そういった努力により帰属意識が高まり、適応能力や異文化コミュニケーション能力が磨かれ、異文化を受け入れ尊重する意識がより強まります。しかし、カナダ出身の作家デイブ・ポラードの研究によると、TCKたちはこうした課題にあまり深く悩むことはなく、むしろ問題に直面しながら対処していく過程で、それを乗り越える力を身につけているということです。
国際的な環境で育つことのメリット
TCKとして育った経験は、成人後にもその人に大きな影響を与えます。多様な文化に触れることで、彼らは柔軟な考え方や国際的な視野を身につけた大人になります。またTCKはその成長過程で複数の言語を使いこなせるようになり、新しい環境により早く適応することが可能となります。多文化的な環境で育つことで、卓越した対人スキルや共感力が養われ、異なるバックグラウンドを持つ人々とも抵抗なく繋がれるようになり、国際的な場での相互理解や協力を育む力が備わります。グローバル化が進み、仕事や教育の目的で外国に暮らす家族が増加する中で、TCKは個々の多文化体験を通じてそれぞれの世界観を作り上げています。
「文化的カメレオン」とは、異なる文化に柔軟に適応できる人を指す表現です。その特性を備えたTCKが大人へと成長すると、多国籍ビジネスチームや多文化教育に関わる組織などで文化間の架け橋となり、互いの視野を広げる貴重な役割を果たすことが可能となります。異なる文化を理解し尊重する感覚を持っているため、異文化理解が欠かせないグローバル組織などでの活躍も十分に期待できます。自身が複雑な状況を経験したことで、多様な背景を持つ人々とも上手くコミュニケーションが図れるTCKは、グローバル化が進む労働市場において今後ますます引く手あまたとなるでしょう。また、彼らの適応能力の高さと多文化への深い理解を持ってすれば、多種多様な人が働く職場で有能なリーダーとなる要素も十分に持ち合わせていると言えます。

Credit: Eva Rinaldi, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
TCKに期待される役割と周囲の理解
TCKは、昨今のグローバル社会において大変重要な役割を担う存在です。彼らが成長過程で身につけた適応力や共感力、そしてグローバルな意識が文化間の架け橋となり、お互いを受け入れ理解しあえる関係を世界に拡大していくのです。それと同時に、彼らが直面する課題をしっかりと認識し、独自のアイデンティティを築くサポートが必要です。グローバル化がさらに進む中、まずはTCKの現状、強みや課題を理解し、彼らが社会や職場にもたらす多様性をポジティブに受け入れることが、今後より一層重要になってくるでしょう。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

この記事を読んで、ダイバーシティの促進に興味を持たれましたか?そんな皆様には、私たちLearning Cycleのプログラムが必ずやお役に立ちます。詳しくはこちらをご覧ください。








