ある日、図書館でQRコードをスマホで読み取り、シンプルな操作で資料を印刷していた時のこと。70代位の女性2人がそのQRコードの使い方に四苦八苦し、印刷できずに困っている様子が聞こえてきました。その時に印象深かったのが、「最近は日常的なことでもやり方がわからないものばかり。とても不便な世の中になったわ。」という言葉。
コロナ禍の隔離生活で様々なデジタル化が進み、以前と比べ簡単、便利な日常になったのは事実です。しかしその一方で、デジタル機器に慣れていない人々、とりわけ高齢の世代にはどのような影響があるのでしょうか。そして今の私たちは、急速なデジタル化による問題をきちんと認識できているでしょうか。インターネットやデジタル技術を十分に使いこなすことができず、それが原因で必要な情報やサービスにたどり着けない人々は、「デジタルデバイド」の状態にあると言えます。

イギリスで行われた研究によりますと、65歳以上の3人に1人が、インターネットの基礎的な知識やスキルを持ち合わせていないことが分かっています。またイギリスの高齢者支援団体「Age UK」の分析では、65歳以上のインターネットが使用できる高齢者でも、そのうち約250万人もの人々は、デジタル社会における日々のネットサービスを自力で使いこなすのが困難とされています。さらに、高齢者の健康と医療に特化したオンライン学術誌「BMC Geriatrics」は、中国における97.1%の高齢者に、デジタルデバイドによる何らかの影響が及んでいると発表しています。
コロナ禍後の急速なデジタル化
コロナ禍をきっかけにオンライン化が急速に進み、多くのサービスがインターネット経由で簡単に利用できるようになりました。しかしその一方で、デジタル技術に不慣れな人々にとっては、必要なサービスが以前より利用しにくくなるという課題も生じています。例えばスペインで行われた調査では、75歳以上の41%がFacebookやWhatsAppなどのコミュニケーションアプリを利用する一方、オンラインバンキングを利用できる人はわずか21%にとどまっているそうです。
オンライン診療やネットバンキングをはじめとする様々なサービスのデジタル化により、高齢者は次第に蚊帳の外に追いやられ、以前にも増して自立した生活が難しくなりました。高齢者を対象とした研究では、「デジタルデバイド」と、生活に他者の助けが必要な状態である「機能的依存」との間に、大きな相関関係があることが示されています。この状態が続くことで認知機能障がいを発症するケースもあり、さらに一部には、うつ病や不安症の原因となることもあります。
インクルーシブなデジタル社会に向けての具体策
この問題に本気で取り組むには、実際に具体的な行動を起こし、社会の意識を向上させることが必要です。高齢者向けのワークショップを無料または低料金で開催し、生活に必要なデジタルスキルを身に付けてもらうことなどは効果的です。一般的に地域の図書館やコミュニティセンターはこうした場によく使われますが、日本では、携帯キャリア各社による高齢ユーザー向けのワークショップやサポートが多く実施されています。また、社会がデジタルへの移行を進める中でも、電話での各種サポートや銀行窓口での対面サービスなど、従来のアナログな方法を引き続き提供することが重要です。これにより、すべての人が日常的なサービスを他人を頼らずに利用することができ、またそのことが、認知機能の衰えを防ぐといった効果も引き出します。さらに、高齢世代にとってもユーザーフレンドリーで使いやすいシステムが開発されれば、デジタル化はよりインクルーシブで役立つものになるはずです。
デジタルデバイドをなくし誰一人取り残さない未来へ
社会はとかく高齢世代を疎かにする傾向がありますが、高齢者を含めた全世代を対象にした政策提言がますます重要になっています。デジタルデバイドは、農村地域に住む人々、障がいのある人々、貧困層など、多くの人々に影響を及ぼす深刻な問題です。この問題に対処することは、単なる技術的な課題の解決にとどまらず、社会全体として果たすべき重要な責務でもあります。上述のような対策を確実に実施することで、誰一人取り残すことのない、よりインクルーシブな未来の社会を築くことができるでしょう。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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