著名人を襲うAI偽画像|誰でも作れる脅威と怠慢な対策

Credit: UNESCO, CC BY-SA 3.0 IGO, via Wikimedia Commons


政策提言団体ゲートフィールドによると、2030年までにナイジェリアの女性および少女の内、最大4,000万人が、生成AIのディープフェイクによる攻撃の標的にされる恐れがあるということです。こうした攻撃に使われるツールは数多く存在し、すでに広く普及しています。AI技術の進化により、ジェンダーに基づく暴力は誰でも手軽に、かつ大量に実行可能となり、その被害は急速に拡大しています。

著名人の背後に市民への無数の被害 

2025年11月、ナイジェリア出身の世界的アーティストのアイラ・スターは、X(旧Twitter)上で生成AIによるフェイクヌード画像を拡散されるという被害に遭いました。同年、女優のケヒンデ・バンコレも、複数のユーザーによって同じ手口の攻撃を受けています。上院議員のナターシャ・アクポティ=ウドゥアガンにいたっては、上院議長によるハラスメントを告発したまさにそのタイミングで、捏造された音声や映像を用いた攻撃の標的となりました。

しかし、こうした被害はナイジェリアだけの問題ではありません。2024年初頭、テイラー・スウィフトのディープフェイク画像がX上で爆発的に拡散され、ホワイトハウスが公式に懸念を表明する事態にまで発展しました。ビリー・アイリッシュもまた、AIで生成された捏造ヌード画像の拡散被害を繰り返し受けています。日本も例外ではありません。シンガーソングライターのあいみょんをはじめ、多くの著名なアーティストやタレントが同様の被害を受けており、精巧に作られた偽画像がネット上に放置され続けるという問題が起きています。

これらの事例は広く報道され社会的な注目を集めましたが、実際には無数に存在する被害のごく一部にすぎません。同じような被害を受けながらも、誰にも知られることなく、共感も支援も得られずに尊厳を奪われている一般女性たちが、無数に存在しているのです。

フェスティバルで歌うナイジェリア出身の歌手アイラ・スター

ナイジェリア出身の世界的アーティスト、アイラ・スター
Credit: Capital FM Kenya, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

かつては高度な技術を要した悪質な行為が、今ではGrokのように身近な生成AIへの簡単な指示だけで実行可能になりました。被害の傾向は明らかに女性に偏っており、ある調査によれば、ネット上に存在するディープフェイクコンテンツの90〜95%が女性を対象にした非同意の性的コンテンツです。特にナイジェリアにおいては、金銭目的の詐欺や政治的、宗教的なヘイトスピーチなど、本来なら多岐にわたるオンライン上の加害行為全体のうち、「女性であることを理由とした攻撃」が全体の過半数(58%)を占めており、世界平均の38%を大きく上回ります。これは、「女性であること」が最大の攻撃要因となっている、異常な実態を浮き彫りにしています。

デジタル暴力が現実の生活を壊す

これらは決して、偶発的な出来事でも個人の問題でもありません。テクノロジーを駆使して女性を沈黙させ、辱め、デジタル空間から排除しようとする組織的な攻撃と断言できます。UNウィメンの調査によると、ネット上での執拗なつきまとい(サイバーストーキング)や、本人の同意なしに画像を拡散する行為、複数の加害者による組織的なデジタル攻撃など、テクノロジーを介した暴力を経験した女性は、国や地域によって異なるものの16〜58%にのぼるとされています。

そして被害は、オンライン上だけにとどまりません。精神的なダメージから仕事にも影響を及ぼし、公の場での発言や活動を諦めざるを得ない状況に追い込まれることもあります。最悪の場合には実際の暴力事件へ発展するなど、現実の生活全体が蝕まれているのです。

放置される被害と動かない社会任

現在のナイジェリアには、この危機的状況に対処できる基盤や体制が決定的に不足しています。生成AIを規制する法的な枠組みはなく、生成AIがジェンダーに基づく暴力を助長しているという現実も、政府としては正式に認識されていません。ネット上の犯罪証拠を収集し分析できるデジタル鑑識の専門チームも非常に少なく、現在発生している規模の組織的なハラスメントへの追跡、対処することは実質的に不可能です。

こうした状況は、問題を知りながらあえて動いてこなかった、意図的な怠慢行為の結果と言わざるを得ません。ナイジェリアでは、女性が暴力被害を申告すること自体に大きな障壁があり、司法へのアクセスも限られ、加害者が処罰されず、野放しになる状況が当たり前のように続いています。オンライン上の暴力がこうした状況をさらに悪化させているにもかかわらず、プラットフォームを提供するインターネット企業は「国をまたぐ複雑な問題だから」と責任を回避し、法執行機関はただ肩をすくめて傍観しているのが現状です。

一方、アイラ・スターのケースでは、大勢の人々がフェイク画像を一斉に通報し、問題アカウントの停止にこぎ着け、怒りと批判の声は社会全体へと波及しました 。人々が一致団結し、連動して行動することが、実際に社会を動かす力になったのです。 しかし、問題の根本を変えるには市民の連帯だけではなく、法整備が不可欠です。 メキシコは「オリンピア法」を制定し、オンライン上のジェンダーに基づく暴力を明確に犯罪として規定しています。フランスも同様の問題に対応する「Sren2024」法を成立させました。今年の「女性に対する暴力撤廃のための16日間」キャンペーンは、政府やテック企業、NPOや市民団体が互いに連携し、具体的な行動を起こす必要性を強く訴えています。 

沈黙がさらなる暴力を生む

AI技術が、ジェンダーに基づく暴力に悪用され深刻な影響を与える現代。アイラ・スターやテイラー・スウィフトをはじめとする事例が示すのは、この問題がナイジェリアだけでなく、日本を含む世界中で起きているという現実であり、これはすべての女性の尊厳に関わる重大な問題です。 

先に述べた法整備だけではなく、インターネット企業への責任追及、そして「女性にとって安全なネット環境こそが女性の社会参加の必要最低条件」という社会全体の認識を広めることが非常に重要です。 女性へのデジタル暴力を些細なことと片づけたり、「ネットを使う限り仕方のないこと」と見過ごすことは、4,000万人のナイジェリア人女性がデジタル空間から排除される未来を黙認するのと同じことです。そのような未来を、私たちは決して受け入れることはできません。

カフェでスマートフォンを見ながら微笑む2人の黒人女性

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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