COP30の焦点はDEIへ|ブラジルがサステナ投資に新提案

Credit: Palácio do Planalto from Brasilia, Brasil, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons


2025年11月に、ブラジルのベレンで開催されるCOP30(国連気候変動枠組条約締約国会議)。アマゾン地域で行われるこの国際会議で、開催国ブラジルは従来の「サステナブル投資(持続可能な投資)」の概念に一石を投じようとしています。具体的には、サステナブル投資の主要原則のひとつとして「DEI(多様性・公平性・包摂性)」を加えることを提案する予定で、これにより、従来の環境中心の議論に新たな視点が加わることになります。採用されれば、サステナビリティの捉え方そのものが大きく変わる可能性も出てきます。

ESG投資の拡大とDEI指標の重要性

一般的に、サステナブル投資とは、「環境(Environmental)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3つの観点、いわゆるESGを取り入れた投資戦略を指します。現在29か国において、企業に対するESG開示の義務が何らかの形で導入されています。ESGの各基準は、企業が人々の生活や地球環境に少しでもポジティブな影響を与えつつ、経済的にも健全な意思決定を行うための指針となるものです。ESG投資は現在急速に拡大しており、ESGを主たる基準として投資する機関投資家の総資産は、2026年までに世界中で33.9兆ドルに達すると予測されています。こうした動向は、企業の倫理的側面に注目した、サステナブル投資への関心の高さを表していると言えるでしょう。

これまでの傾向として、ESGでは「E(環境)」が「S(社会)」より重視されるケースが多く見られました。2022年には、投資家の89%がESGを投資戦略に取り入れていると回答していますが、実際その多くは環境分野への投資に集中しています。とりわけ気候変動への対応は強い支持を集めており、企業は温室効果ガスの排出削減、再生可能エネルギーの導入、廃棄物の削減といった取り組みに力を入れてきました。一方で、労働力の多様性や地域社会との関わりといった「社会的」指標への注目度は、相対的に低いのが現状です。特にDEIに関する取り組みは、これまでもあまり重視されていません。これは、ジェンダー平等や労働環境の改善、地域社会との連携など社会的要素は数値化が難しく、地域や文化によって評価軸が異なること、さらには企業がESGの全要素を一貫して報告できていないという課題も関係しています。しかし、こうした理由があったとしても、人権や多様性の尊重、包括的な雇用、インクルーシブソサエティをつくるといった視点を軽視してよいことにはなりません。

ESG開示の重要性を訴えるグローバルESGアワードのグラフィック

Credit: Globalesgawards0, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


COP30議長国ブラジルからの提言

ブラジル財務省の持続可能な経済開発担当次官、クリスティーナ・レイス氏は、サステナビリティの枠組みに社会的多様性を組み込むことの重要性を強く訴えています。すでにブラジルにはジェンダー平等や差別を禁止する政策が整備されており、今後さらなる前進を視野に入れています。これは、ブラジル大統領府発表の公式書簡にも示される「倫理的かつ包括的な気候変動対策」への、国としての姿勢にも一致しています。COP議長国として、ブラジルは「Global Ethical Stocktake(グローバル倫理評価)」と呼ばれる新たな取り組みを開始します。シンクタンク、科学者やアーティスト、先住民族のリーダーなど、さまざまな分野から多様な視点を持つ人々が集まり、新たな国際的な枠組みの構築を目指す予定です。16世紀フランスの作家ラブレーの言葉「良心なき科学は魂の破滅を招く」を引用し、ブラジルは、サステナビリティとはデータによる実証だけでなく、倫理的な意識に根ざさなければならないと訴えています。

ブラジルが目指しているのは、ESGを掲げる企業が環境への配慮だけでなく、多様性や包括性にも真摯に取り組む姿勢が正しく評価される仕組みづくりです。もしこの提案が受け入れられれば、投資家達が支援する企業がどのように地域社会や従業員と向き合っているか、そして社会的な責任を果たしているかという側面に、より目を向けるようになるでしょう。

一方で、大きな課題もあります。アメリカやアルゼンチンなど、一部の国ではDEI政策の見直しや撤回の動きが見られ、性別や人種、性的指向などの違いを尊重する社会的な基準を明確に定めることは、ひとつの国の中ですら容易ではないのが現実です。ましてや、文化や歴史の異なる国々に共通の基準として適用することは、さらなる困難を伴います。また、DEIを企業評価の基準に組み込もうとする動きには、否定的な層からの反発が予想され、企業の業績悪化やそれに伴う株価や配当の下落を懸念する投資家も少なくありません。

企業のDEI施策は社会の意識を変える

本来、ESGの「S(社会)」は、企業が地域社会とどのように関わり、いかに責任を果たしているか、また、その活動が人々や社会全体にどのような影響を与えているかを評価するものです。その点で、ブラジルの提案は非常に理にかなっていると言えます。企業がDEIを施策に組み込むことは、単に組織内の多様性や包括性を促進することに留まりません。地域社会への貢献や、差別や不平等の是正、そしてより公正な社会の実現に向けた意識の醸成にもつながります。企業が変われば、社会の意識も仕組みも変わる。ブラジルは、まさにその問いを世界に投げかけているのです。

ESG要素の環境、社会、ガバナンスの繋がりを示すグラフィック

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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