女性はなぜ脇役が多いのか|指標が映し出す映像業界の構造的偏り

1985年、アメリカの漫画家アリソン・ベクデルは、自身の連載コミック「Dykes to Watch Out For」の中で、メディアにおける女性の描かれ方をめぐり、後に数十年にわたり議論を呼ぶことになる作品を発表しました。原案は、イギリスの作家ヴァージニア・ウルフによる「女性は男性の脇役としてしか描かれない」という批判に由来しています。作品の内容はシンプルで、映画館に向かう女性二人が会話の中で、映画を見る条件を語ります。「登場人物に少なくとも2人の女性がいること」、「その女性同士が会話すること」、「その会話で男性以外の話題が出てくること」。しかし、この条件を満たす映画はほとんど思い浮かばず、結局彼女たちは映画を見ずに帰ってしまいます。ベクデル自身は、この一コマについて「当時の主流メディアではほとんど扱われなかった女性の権利やジェンダー平等といったテーマを、フェミニスト系メディアに載せたちょっとしたレズビアンジョーク」と語っています。しかし、この短い作品は、その後の映像やメディアにおけるジェンダー表現の重要な基準となりました。

この一コマに出てくる3つの条件は、現在「ベクデル・テスト」として呼ばれています。場合によっては「登場する女性に名前があること」が条件に加えられる場合もありますが、基本的な項目や基準は当時とほぼ変わっていません。今日ではこのテストは、映画だけでなくテレビや小説、さらにはビデオゲームにまで応用され、物語における女性の存在感や主体性を簡単に確認する指標として、広く用いられています。

アリソン・ベクデル
Credit: Chase Elliott Clark, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons


ベクデル・テストが示すものと限界

ベクデル・テストは、フェミニズムの度合いを測る絶対的な基準ではありません。女性の描かれ方を簡単に確認する、リトマス試験紙のような役割を果たします。テストをクリアしていれば、ジェンダー平等を重視した作品だと誤解されることがよくありますが、実際には、フェミニズムの視点から女性同士の会話内容やその深み、そしてストーリーの中でそれがどれほど重要な意味を持つのかまでは測れません。例えば、女性二人が登場し、靴や赤ちゃんの名前についてわずか数秒だけ会話するシーンがあるだけでも、合格となってしまうのです。

その逆に、ベクデル・テストの基準を満たさない作品が、必ずしも性差別的というわけではありません。例えば、登場人物が全員男性の舞台や、登場人物が極端に少ない作品は、女性を排除する意図がなくても、基準を満たさない場合があります。また、基準がシンプルであるため、形式的に女性同士の会話を一言だけ加えれば「合格」にできてしまう点も指摘されています。このように、このテストには一定の限界があることも理解しておく必要があります。

映画における男性と女性の配役の割合
Credit: Sandstein, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


ベクデル・テストの価値ある利用方法

以前、アメリカのウェブメディアHello Gigglesの記者が、日常生活の中で「ベクデル・テストに合格する会話」を意識的に試みたことがあります。つまり、女性同士で男性に関する話題を避けて会話をしてみるという実験です。ところが、親しい友人とのやり取りでさえ、この条件を満たすことは至難の業だったといいます。このエピソードは、映像作品における表現と現実のやり取りには大きなギャップがあること、そして私たちの日常会話で男性の話題がいかに当たり前になっているかを浮き彫りにしました。

ベクデル・テストは、個々の作品を評価するよりも、業界全体の傾向を把握する際に力を発揮します。例えば、映画やドラマの脚本、広告キャンペーンなどを対象に、女性の存在や描かれ方の偏りを簡易に見極めるツールとして有効です。ただし、女性の描写が本当に意味あるものかを判断するには、このテストだけでは不十分です。マコモリ・テストなどの補完的な基準や、登場人物が物語で成長していくか、女性が意思決定をするような重要な役で出てくるか、また、性別、人種、障がいなどの属性の重なりを踏まえた多様性の観点も、併せて考慮する必要があります。

議論や注意喚起にある存在意義

ベクデル・テストの真価は、社会に議論を促す機会を与えた点にあります。女性の描かれ方を本当に改善していくためには、作品に女性が登場するかどうかだけでなく、女性がどのように描かれているのか、なぜそこに登場するのか、その存在が作品の中で意味を持つのか、といった点を改めて問い直す必要があります。

ベクデル自身も語っている通り、このテストは最終的な判定基準ではありません。合格したからといって、必ずしもその作品が平等や女性の自立を描いているわけではありません。ベクデル・テストは、スクリーンに映るストーリーや、登場人物たちがどう描かれているかに目を向けさせ、私たちに映像表現の多様性について意識させる大切なきっかけとなるのです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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