マイクロアグレッションとは、発言した本人に「誰かを差別したり傷つけたりする意図」がなくても、相手を侮辱するニュアンスが含まれてしまう、小さな偏見や差別的な言動を指します。例えば「女性なのに出世してすごいですね」といった言葉は一見なにも問題なく、逆に褒め言葉のつもりで言う人もいるでしょう。でもこの言葉の裏には、「女性は出世できない」といった無意識の差別的な思い込みが潜んでいるのです。このようなことを言われた人は感情や心に傷を負い、まるで自分は存在価値が無いかのように感じたり、周囲にとってどうでも良い人間だと思ってしまう原因にもなります。職場でマイクロアグレッションに遭うと、仕事への自信を失ったり、昇進への意欲が低下するなど精神的にネガティブな影響が現れ、最終的には仕事全体へのモチベーションが大きく損なわれることがあります。プライベートな人間関係でも同様に、相手を信頼する気持ちが揺らいだり、排除的な空気感が生まれる原因となります。しかし、マイクロアグレッションを敏感に意識することで、よりインクルーシブな職場や生活環境を築くことが可能になります。
無意識の偏見から生まれるマイクロアグレッション
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は、私たちの深層意識に根付いていることが多く、気づかないうちに他者への認識や接し方に影響を与えます。その結果、マイクロアグレッションといった言動につながります。例えば、採用担当者が自分と似た経歴の候補者を無意識に優先してしまい、その候補者と同じくらい優秀で多様な経歴を持つ別の人材を不採用としてしまうケースなどが挙げられます。こうした偏見は、固定観念に基づいた発言や行動を引き起こしたり、人を過小評価する原因にもなります。このようなマイクロアグレッションが繰り返し行われることで、社会的な不平等が強まり、差別が長く続くことになります。既にインクルーシブな環境でさえ、無意識に潜む悪しき言動を追放するためには、個々の永続的な努力が必要なのです。
マイクロアグレッションの3つのカテゴリー
マイクロアグレッションは、主に3つのカテゴリーに分けることができます。1つめのマイクロアサルト(Microassault)は、侮辱的な発言や攻撃的な言葉を使うなど、明らかに意図的な差別行為ですが、しばしば冗談として片付けられる傾向があります。名前を間違った発音で呼び続けるという行為もこれに当たります。2つ目のマイクロインサルト(Microinsult)は、相手のアイデンティティを貶めるようなニュアンスで言われる微妙な発言のことを指し、例えば言葉の特有なアクセントと知性の低さを結び付けるような場合がこれに該当します。最後のマイクロインバリデーション(Microinvalidation)は、その人の経験やアイデンティティが軽視されたり無視されたりすることを意味します。例えば、「私は人種を意識しない」という発言は、一見相手を受け入れているかのようにも思えますが、実際には相手の人種にまつわる様々な経験や考え方を尊重せず、否定したり無価値なもののように扱っていることになるのです。
被害者に残る心身へのダメージ
マイクロアグレッションの被害にあった人は、精神的にも身体的に大きなダメージが残ることが研究で明らかになっています。「ハーバード・ビジネス・レビュー」によると、働く人の10人中7人がマイクロアグレッションに不快感を覚えると答え、さらにそのうち半数が退職を考えると述べています。中でも人種に関するマイクロアグレッションは深刻で、不安感や慢性的なストレスに始まり、うつ症状の悪化、さらには身体的な健康問題にまで影響が及びます。これらの状態が蓄積することで、職場での集中力や生産性が低下し、やがては生活全般の質も損なわれてしまう可能性があります。 さらにマイクロアグレッションは、多文化的な背景を持つ人々に対し、より大きな負担を与えています。例えば、欧米諸国に移住した人々が、周囲が発音しやすいよう英語風の名前を名乗ったり、子どもに西洋風の名前をつけることがよくあります。これは、多様な文化的背景を尊重するよりも、移住先の文化に適応し、その土地の人々に受け入れられることが最優先だというプレッシャーや自己防衛の表れだと考えられます。

人種グループ別のマイクロアグレッション実態比較グラフ
自らの認識と行動を見直しインクルーシブな環境へ
職場やコミュニティにおけるマイクロアグレッションを防ぐには、まず私たち自身の認識や行動を改めて見直すことが必要です。マイクロアグレッションは思わぬ形で存在し、無意識のうちに自分が発している可能性があると自覚することが最初のステップなのです。自分のこれまでの認識を再確認し、相手とオープンに向き合うことを心掛け、多様な経験を持つ人々から学び続けることで、誰もが尊重されていると実感できるインクルーシブな環境を築くことができます。
最も重要なのは、無意識に他者を傷つける言動を取ってしまった時に、まずはそれを素直に認めることです。私たちに十分な教育や良い心掛けがあっても、世界から偏見を完全に無くすことはできません。自らの行為を振り返り、マイクロアグレッションを発してしまったことに対して真摯に謝罪し、反省し、自ら変わろうとする意志を相手に示すこと。この姿勢こそが、個人の成長とインクルーシブな社会の実現につながるのです。

ゲストライター G. Johnson による寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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