自分には十分な能力や実績、経験があるのに、「本当の力がない」「ただうまくやっているように見せかけているだけ」と感じたことはありませんか。これはインポスター症候群(Imposter Syndrome)と呼ばれる感覚で、多くの人が経験しています。特に、女性やLGBTの人々、有色人種など、社会的マイノリティに多く見られる傾向があります。優秀であるにもかかわらず、成功を「運が良かっただけ」と考え、自分の力を否定してしまうのです。ラーニングサイクルでは、日本で活躍する3人の女性経営者に、インポスター症候群が自分や周囲の女性たちのキャリアにどのような影響を及ぼしてきたのかについて話を伺いました。
実力はあるのに自信が持てない人たち
女性が管理職に就いたり、いわゆるSTEM分野(科学、技術、工学、数学)のように、従来から男性が多数を占める業界で働く場合、インポスター症候群は決して珍しいものではありません。ある調査では、STEM分野で働く女性の97.5%がこの感覚を経験したと回答しています。また、Fortune 1000企業の女性幹部層を対象にしたKPMGの調査では、75%が自分の能力や実績を過小評価し、そのうち57%は昇進や異動などの転換期に特にそうした気持ちになると答えています。
この傾向は、日本で活躍する多くの女性経営者にも同様に見られます。ウェブマーケティング企業PencilのCEO倉橋美佳氏も、管理職に抜擢された際に同じような感覚を味わいました。それまで数々の実績を上げてきたにもかかわらず、男性ばかりの会議では存在を軽んじられることが少なくなかったといいます。さらに、自分がすべての女性を代表しているかのような視線を向けられることにも、強い違和感を覚えたそうです。

STEM領域の女性が最もシビアにインポスター症候群を経験
Credit: Psi Chi
日本とアメリカ、男性が多数を占める経営層
外から見れば、成果を出し続け順調にキャリアを重ねる女性は、自信に満ちているように見えるかもしれません。だからこそ、彼女たちが不安や自己否定感を抱えていると聞くと、意外に思う人も多いでしょう。しかし、インポスター症候群は単なる個人のメンタルの問題ではなく、職場環境や企業構造が大きく関係しています。
経営陣に多様な人材がいなければ、ダイバーシティやインクルージョンの視点が欠けたままになり、古い固定観念は根強く残ってしまいます。実際、Fortune 500企業のCEOのうち女性はわずか10.4%、日本の上場企業に至っては1%にとどまっています。経営層の大半が男性で占められている現状では、「企業のトップは男性が務めるもの」という思い込みが、引き続き固定化されてしまうのです。

女性CEOの数の変遷(Fortune 500)
Data via Fortune
AIを活用した分析とコミュニケーションプラットフォームを提供するAI CROSS。そのCEO兼社長、原田典子氏は、男性優位の職場に悩む女性リーダーたちに、力強くこう語ります。「男性と同じになる必要はありません。これまでのステレオタイプに自分を無理に合わせれば、自分らしさを失い、不幸になるだけ。ジェンダーに基づく期待や偏見に振り回されないことと、男性と仕事をすることへの免疫を持つことも大切です。」その上で同氏は、性別を問わず、自分を支えてくれる仲間のコミュニティに参加する重要性を強調します。そして、マジョリティ側にいる男性も、多様な経験を共有し、同僚や後輩のリーダーシップの成長を後押しすることで、職場にポジティブな変化をもたらす有力な味方になると言います。
同じような価値観や感覚を持つ人が多い職場では、マイノリティはしばしば「例外的な存在」と見なされ、能力や実績が正当に評価されにくくなります。フランスラグジュアリーブランドの日本法人、元社長の金山桃氏もその一人です。日本で生まれ、5歳からフランスで育った同氏は、就任当初、欧米出身の男性が大半を占める取締役会で数少ない女性かつ日本人という立場でした。常に自分が異質な存在だと感じ、日本とフランスという二つの文化をつなぐため、ぶれない自分軸を早い段階から持つことを意識してきたと言います。同氏がインポスター症候群を乗り越える鍵として挙げるのは「自分を責めすぎないこと」。これまでの成果を信じて、自分に優しく接すること。そして、自分を本気で支えてくれる人たちとのつながりを大切にすることが、安心感やモチベーションを保つために欠かせない要素だと強調します。
周囲への働きかけで本来の強さに輝きを
インポスター症候群を克服することは決して簡単ではありません。倉橋氏の経験からもわかるように、自分には実力があると頭で理解していても、それだけで十分とは言えないのです。職場の文化や構造によっては、つい「まだ力が足りないのではないか」と誤った解釈をしてしまうこともあります。克服への第一歩は、問題を正しく理解することです。まずはインポスター症候群について正しく学び、その知識を周囲と共有することから始めましょう。そうすることで、この難しいテーマについて話しやすくなり、本人と周囲の双方により深い理解や安心感がもたらされます。実際、原田氏や金山氏も、人とのつながりや自分を支えてくれる仲間の存在が何より大切だと述べています。研究でも、インポスター症候群を抱える人は協調性が高く、チームワークやコミュニケーション能力に優れていることが示されています。自分の弱さを補うために他者を助け、協力する姿勢は、むしろ人を惹きつけ、チームに価値をもたらす強さの証でもあるのです。これらのつながりをさらに深め、物事の捉え方を前向きに切り替えていくことで、誰もが自信を持って自分らしく歩むことができるはずです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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