アクセシビリティとは、年齢や障がいの有無、環境などに関わらず、すべての人が容易に情報を入手し、サービスや製品を利用できることを意味します。これは利便性の問題にとどまらず、人が安心して自立し、誰もが共に暮らせる社会をつくるための重要なテーマです。たとえば、信号の色が分からないまま交通量の多い交差点を渡らなければならない危険な状況や、レストランでメニューを誰かに読み上げてもらわなければならない不便さを想像してみてください。こうした環境は、視覚に障がいのある2億5300万人(うち全盲の人3600万人)が日々直面している現実です。
急速なオンライン化とアクセシビリティとの壁
近年、社会のさまざまなサービスがオンラインへと移行しています。このデジタルの世界が広がる今、オンラインサービスをすべての人にとって使いやすくすることは、最も重要な課題のひとつです。ところが現状では、96.3%のウェブサイトに何らかのアクセシビリティ上の不具合があり、1ページあたり平均50件もの問題が見つかっています。たとえば、画像に代替テキストが設定されていないケース。代替テキストとは、画像が何らかの原因で表示されないときや、音声読み上げブラウザを使用する際に表示される説明文で、視覚に障害があるユーザーがスクリーンリーダーで内容を理解するのにも利用されるものです。また、何の機能か分かりにくいクリックボタンがウェブ上に配置されていたり、見づらい色のコントラストが使われていることもあります。視覚に問題がない人には些細なことに思えるかもしれませんが、視覚障がいのある人にとっては、教育や就業、医療や地域サービスへのアクセスを阻む大きな壁となります。こうした問題の多くは、設計段階でアクセシビリティに配慮していれば十分防げるものです。

視覚障がい者に関するインフォグラフィック
Credit: International Agency for the Prevention of Blindness via PubMed Central
実際に、当事者への影響は非常に深刻です。アメリカのIT専門誌「Wired」のインタビューで、視覚障がいのあるユーザーは、「オンライン利用時間の9割は、使いにくさと格闘する無駄な時間」と語っています。例えば、「こちらをクリック」と書かれたリンクをたどった先に、スクリーンリーダーでは入力きないフォームしか用意されていない場合などがその一例です。こうしたケースでは、ユーザー側の一連の作業が無意味となるだけでなく、結果的に障害のあるユーザーがデジタル社会から排除されることにもつながります。2025年の今も、こうした障壁は人々が「普通の生活」を送る権利を阻む要因となっています。
ガジェットの発想から支援ツールを展開
そのような現状はあるものの、デジタル技術は、人々の生活を改善するきっかけを与えてくれます。最近の新製品は、障がいのある人の自立をどう支えるか、という視点を備えつつあります。たとえば「Ray-Ban Metaスマートグラス」は、カメラ、音声操作、そしてMeta社のAIを組み合わせたサングラスです。ユーザーが「目の前に何がある?」と尋ねると、周囲の状況をリアルタイムで説明してくれます。元々は一般消費者向けのウェアラブルデバイスですが、活用次第で、障がい者が他者に極力依存せずに日常生活の行動範囲を広げられます。
また、視覚障がい者向けに開発された専用ツールもあります。スマートフォンアプリ「Be My Eyes」は、目の見えないユーザーとボランティアをビデオ通話でつなぐサービスとして始まりました。現在では、GPT-4を搭載した「Virtual Volunteer」により、画像の説明や質問への応対が可能になりました。これにより、食品の賞味期限を読み上げたり、道路標識を確認したりするなどのニーズに応えます。また、「OrCam MyEye」は眼鏡に装着する小型デバイスで、文字の読み上げや顔認識、商品の識別をリアルタイムで行うことが可能です。
アクセシビリティのために費用が発生する不平等
こうした新しい技術や製品は、大きな希望を与える一方で、本来は誰でも利用できるべきものが、高価なツールを購入しなければ使えないという状況は、公平とは言えません。アメリカでは「障がい者法(Americans with Disabilities Act)」により、ウェブサイトや各種サービスのアクセシビリティが法的に義務づけられています。それにもかかわらず、違反を巡る訴訟は相次いでおり、2023年には4,500件を超える違反事例が報告されました。
アクセシビリティは一部の人のためだけのものではなく、すべての人に恩恵をもたらす「ユニバーサルデザイン」であるといえます。街のスロープが車いす利用者だけでなくベビーカーを使う親にも役立つように、アクセシビリティを十分に考慮して設計されたオンラインサービスは、誰にとっても使いやすいものになるはずです。視覚障がいのある人々は、特別扱いを求めているのではありません。他の人と同じように、当たり前にデジタル社会に参加したいと願い、その権利を主張しているのです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

私たちLearning Cycleは、日常業務でインクルーシブな取り組みを効果的に実践できるように、実用的なDEIプログラムを提供しています。組織の状況に合わせたカスタマイズも可能です。是非、私たちのワークショップをチェックしてみてください。








