HIV治療の進歩:1日20錠の服用が今では1錠に
Credit: NIAID, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
2023年のUNAIDS(国連エイズ合同計画)の報告によると、世界では現在3,900万人以上の成人がHIVに感染しています。なかでもアフリカ、特にサハラ以南は、世界で最もHIV感染率が高い地域です。WHO(世界保健機関)によれば、この地域に住む成人の感染率は3.4%に達し、世界全体のHIV感染者の約3分の2を占めています。HIVは体内の免疫細胞を攻撃する「レトロウイルス」による感染症で、このウイルスの増殖を抑えるために複数の薬を毎日服用する治療を「抗レトロウイルス療法」と呼びます。現在では、この治療を正しく行えば、性交渉による感染も防ぐことが可能となりました。しかし、HIV陽性者に対する偏見や差別は、社会に未だ残り続けているのが現実です。

人口に占めるHIV感染者の割合
Credit: Joint United Nations Programme on HIV/AIDS, CC BY, via OurWorldInData.org
HIV陽性判明後に待ち受ける恐怖と批判
HIVが発見されてからおよそ40年。HIVはもはや医療だけの問題ではなく、社会的な課題へと変化しています。多くの感染者にとって、ウイルスそのものよりも重くのしかかるのは、感染確定後に向けられる周囲からの偏見です。距離を置くような視線、HIVの話題を避けるぎこちない態度、そして誤ったイメージから生まれる差別的な言葉。それらが人々の心に、深い傷を残すのです。感染者に対する差別は、HIV感染への恐怖や死の連想、さらには感染率の高い地域や特定の職業の人々への道徳的批判など、複数の要因によって生まれます。加えて、HIVという病気や感染経路に関する誤った情報や、正しい知識を学ぶ機会自体の少なさが、この状況をより一層助長しています。
HIVとともに生きる人々が受ける排除や不利益は、個人の問題にとどまらず、社会の制度や慣習、価値観に根ざした差別として社会全体に存在しています。学校ではHIV陽性の子どもたちがいじめの対象となったり、個々の能力や成績に関わらず、授業や課外活動、修学旅行などへの参加が制限されることもあり、子どもたちが持つ本来の力を十分に発揮できない場合があります。職場では、感染したことを会社に伝えた従業員が昇進の機会を失ったり、解雇されるケースも発生しています。また、体調が優れなくても、病院を受診すれば自らの感染が知られてしまうのではという不安から、治療をためらう人が少なくありません。このような差別や偏見は、基本的な人権にかかわる深刻な問題です。人としての尊厳や公平性、インクルージョンといったテーマについて社会全体で考え、より幅広く議論する必要があります。
ピアサポートの重要性
誰もが安心して生活し、社会活動に参加するためには、社会全体の仕組みや人々の意識を変えていく必要があります。International AIDS Society(国際エイズ学会)のように、当事者への支援や啓発活動を行う団体の取り組みは、HIVとともに生きる人々が安心して日常生活を送り、医療やソーシャルサービスにアクセスしやすくなるなど、生活の質に大きな変化をもたらします。
また、地域のコミュニティグループも重要な役割を担っています。ここでは、同じ経験をした仲間同士が支え合う、いわゆるピアサポートが行われており、安心して自分の体験や悩みを話したり、情報を共有したりできます。本当に理解してくれる仲間から心の支えを得る、安全な空間でもあります。こうした環境は、孤立感を和らげるだけでなく、自分の健康状態を前向きに捉えようとする力も与えてくれるのです。
企業もまた、HIVを持つ従業員を守るために、職場環境を整備する責任があります。守秘義務を徹底し、社員への教育を通じて偏見を減らすことで、職場の公平性が高まるだけでなく、従業員のエンゲージメントや生産性の向上にもつながります。こうしたインクルーシブな環境づくりは、従業員だけでなく企業にも利益をもたらします。

HIV/AIDS対策のアメリカ政府特使ジョン・ンケンガソング氏の若者とのセッション
Credit: USEmbassySA, Public domain, via Wikimedia Commons
国の政策でHIV感染者に公平な社会生活を
HIVへの対応は、良くも悪くも国の政策によって大きく左右されます。だからこそ、政府には、HIV感染者が周囲の視線を気にすることなく、安心して支援を受けられる体制を確保する責任があります。病院での検査や治療、その他ソーシャルサービスへのアクセスを広げるとともに、HIV感染者や社会への正しい知識を広め、低所得層や地域コミュニティの住環境改善など、人々の健康と密接に関係する課題にも取り組む必要があります。さらに、こうした取り組みを支える、先進的な医療や福祉プログラムの導入も欠かせません。
これらの取り組みが一体となり機能してこそ、感染者に押された負の烙印や差別を多面的に取り除くことができます。制度改革と人々の意識変化が相互に作用すれば、HIV感染者たちは安心して学業や仕事、地域活動に関われるようになり、医療機関の利用も進むことで、感染拡大の抑制や社会全体の健康増進にもつながります。偏見と誤解を乗り越えた先には、HIVを抱えながら生きる人々が病気にとらわれることなく、一人の人間として尊重される社会があります。誰もが安心して自分らしい歩みを進め、社会の中で役割を果たせる、そんな未来が待っています。
ゲストライター Z. Akandeによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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