人脈という見えない特権|努力だけでは勝てない組織構造

「何を知っているかではない。大事なのは誰を知っているかだ。」ビジネスの世界に身を置く人であれば、このフレーズを一度は耳にしたことがあるでしょう。ネットワーキング(人脈づくり)は、とかく誰でも身に付けられるスキルと考えられがちです。実際、自分の存在や能力を周囲に認知してもらったり、メンターやスポンサーとのつながりを築いていく中で、新たな機会が呼び込まれるため、ネットワーキングはキャリアの成功に深く関係していることが数々の研究でも示されています。とはいえ、こうした人間関係や仕事上のコミュニティへの「アクセス権」が最初から平等でないとしたらどうでしょうか。人脈づくりは単なるスキルではなく、格差を生み出す要因へと姿を変えてしまいます。

努力だけでは埋められないスタート地点の差

一般的に、ネットワーキングの成果は本人の努力次第だと言われることが少なくありません。しかし実際には、豊富な人脈を持って社会に出る人がいる一方で、人間関係をゼロから築かなければならない人もいます。そのため、キャリアのスタート時点から、人脈を持たない人は圧倒的に不利な立場に置かれてしまいます。 

この問題の根底にあるのが、「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」です。これは、人とのつながりや紹介、信頼関係によって生まれる機会や価値を意味します。様々な研究において、こうした人間関係は、個人の能力や資格よりも強い影響力を持つという指摘もあります。2025年に実施された、大学卒業生の就職に関する調査Cengage Graduate Employability Reportでは、就職に最も影響した要因として「知人の紹介」と答えた割合は25%に上り、「大学で取得した学位(17%)」を上回りました。また、信頼できる同僚から推薦された応募者は、同等の能力を持つものの推薦がない候補者よりも、安心して採用できる人材だと見なされる傾向があります。つまり、ネットワーキングの成果は本人の努力だけではなく、有益な人脈に「アクセスできる環境にいるか」に大きく左右されるのです。

大学卒業者の25%が就職に最も影響力のある要因として個人的な紹介を挙げたことを示す円グラフ

卒業生が回答した「就職の決め手」(2025年)  オレンジ:知人の紹介、濃緑:インターンシップ、緑:面接スキル、薄緑:取得学位、グレー:その他
Data: 2025 Employability Report via Cengage


受け継がれる人脈という特権

仕事上の人脈は、誰にでも平等に開かれているわけではありません。裕福な家庭に育った人や名門大学の卒業生、また既に業界で影響力を持つコミュニティにつながりを持つ人は、社会に出る前から有利な立場にあります。たとえば、アメリカの名門私立大学には「レガシー入学制度」という、卒業生の子どもを入学選考で優遇する仕組みがあります。この制度をめぐっては、長らく批判の声が上がってきました。同窓のOB・OGネットワークは、インターンシップや関係者の紹介といった就職の入り口から、就職後のリーダー職への登用といった出世まで、様々な恩恵をもたらします。この制度が、そうした恩恵を裕福な家庭だけに世代を超えて与え続ける仕組みになっている、というのがその理由です。 

こうしたネットワークにひとたび入ることができれば、一つの好機が次なる可能性を連鎖的に生み出し、恵まれた立場にある人ほど恩恵を受けやすくなります。一方で同等の能力を持ちながらもネットワークに属さない人は、まずは自分の存在を認識してもらうだけでも、より多くの努力を強いられます。このような傾向は、卒業後に社会人となってからも続きます。排他的なビジネスネットワークには、従来からの格差構造が色濃く表れており、社会的地位も高く、経済的にも恵まれたグループが、非公開の優良な儲け話から、名誉ある役職にいたるまで、あらゆる「美味しい話」を身内だけで融通し合っています。いわゆる「ボーイズクラブ(男性中心の閉鎖的なネットワーク)」が今日の職場でも問題視されるのはこのためであり、女性や有色人種はこのサークルに入ることができず排除され続けています。


人脈が壁にならない組織へ

組織内の人脈自体に価値があることは事実であり、それを変えることはできません。しかし、人脈が「見えない壁」となって及ぼす影響をコントロールすることは可能です。期待値の高いプロジェクトへのアサイン、昇進に紐づく評価など、仕事上の様々な機会をオープンにして透明性を高め、誰もが新たな人脈を築ける仕組みを整えることで、キャリアの成長が既存の人脈だけで決まることはなくなります。また、マジョリティの立場にある社員がマイノリティの社員の成長を積極的に後押しする「スポンサーシップ」は、キャリア形成に大きな影響を与えます。ただし、こうした支援も、既存のネットワークの中で特定の個人を後押しするだけでは従来と何も変わりません。誰もが機会にアクセスできる仕組みと組み合わせてこそ、真の効果を発揮するのです。

裕福な家庭環境、名門大学の学歴、あるいは性別。そうした要因によって、特権的に良い人脈に繋がっている人たちが、マイノリティに向かって安易に「もっと人脈作りを頑張れ」と言うのであれば、それは重要なポイントを見落としています。彼らが手にしてきたその優位性は、他の人がいくら努力し、強い意志を持っていても、簡単に手に入るものではないからです。もし努力次第でその優位な立場が手に入るのであれば、名門大学や有力企業のトップ層が、今日のようにこれほど同質的な顔ぶれになっているはずがありません。本当の多様性を実現するためには、「誰と知り合いか」や「どの大学を卒業したか」で個人の可能性を判断するのではなく、誰もが公平な仕組みの中で才能を認められ成長できる、インクルーシブな環境を整える必要があります。そしてその実現は、個人と組織、双方の取り組みにかかっているのです。

男性上司が同僚に対して親しみを込めて会話しているのを寂しく見守る男性

ゲストライター F. Makoniによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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