AI学習の餌食となる個人情報|プライバシーを守る力を育む

私たちを取り巻く世界が発展するにつれ、日常の多くはデジタル空間へと移行しました。教育、仕事、ニュース、娯楽、そして人との交流。いまや私たちは、ほとんどのことをオンライン上で行っています。その一方で、デジタル空間のリスクについては見落とされがちです。プライバシーの大切さは広く語られているものの、それが切実な問題として認識されるのは、現実にトラブルが起きてからというケースが少なくありません。そもそもプライバシーには、明確な線引きというものが存在しません。誰がその情報を見るのか、どのような情報がどこまで集められているのかによって、それが「私的なことかどうか」の判断が変わってくるからです。実際その曖昧さによって、私たちには日常の何気ない行動に対し、被害が表面化するまで危険性を感じにくくなっています。

無意識に同意してしまうCookie使用許可

私たちのプライバシーは、思うほど安全に保護されているわけではありません。その背景には、私たち自身の日常的な行動があります。たとえば、よくウェブ上で表示される「Cookie使用許可」に深く考えず同意してしまう行為です。一度同意すると、そのサイトを通じて個人情報が継続的に収集され、行動パターンとして蓄積されていきます。とはいえ、Cookie使用に同意しないと、特定のサイトや記事にアクセスできなくなることから、利用者は事実上「同意せざるを得ない」状況に置かれているのが実情です。Cookieを承諾したことにより、IPアドレスや端末情報、閲覧履歴といったデータが収集され、オンライン上での行動分析に使われているにもかかわらず、その事実を十分に理解している人は多くありません。

こうしたプライバシーの問題は、私たちの職場でも起きています。企業による従業員の行動管理は、仕事と私生活の境界が曖昧になっている典型的な例です。近年では、企業が従業員のSNSを定期的に確認したり、個人のスマートフォンに業務用アプリのインストールを義務付けたりするケースも珍しくありません。その結果、業務とは直接関係のない個人情報にまで企業側がアクセスすることが可能となってしまいます。これはプライバシー権の侵害が疑われる状況であり、同時に、端末を仕事用と個人用で分けることの重要性を改めて示しています。

子どもの写真が勝手に拡散される恐怖

現代の子どもたちは、デジタルに囲まれた環境で生まれ育ち、その仕組みや影響を十分に理解しないままSNSに触れています。さらにAIの急速な普及により、子どもに関する写真やコンテンツは、以前にも増して悪用されやすい状況に置かれています。AIは、同意のないまま収集された膨大な画像データをもとに学習を続け、一度取り込まれた写真は、生成や編集、別の目的への加工など、さまざまな形で利用されてしまいます。実際に、こうした技術が「Child Sexual Abuse Materials(児童性的虐待コンテンツ)」の生成に悪用された事例も報告されています。

動画をオンラインに投稿している8〜12歳が、サイバーいじめを経験したかを示すグラフ

動画をオンラインに投稿しているかどうかによるサイバーいじめ経験率の比較(対象:8〜12歳)
Data: CybersafeKida.ie

現時点では、子どもの個人情報や写真を親がオンラインに投稿することに明確なルールは存在しません。しかし、その情報がいかに簡単に拡散され、別の目的で加工され、意図しない形で悪用され得るのかについて、社会全体でより強い問題意識を持つことが求められます。


法律だけでは子どもたちを守り切れない

イギリスには、Children’s Code(子ども向けデータ保護指針)やUK GDPR(英国一般データ保護規則)、Online Safety Act(オンライン安全法)など、子どもを守るための法制度が整備されています。しかし、SNSや動画配信サイトといった、多くの人の目にさらされるデジタル空間の実態を、これらの制度が十分にカバーしているとは言い切れません。近年増加している、SNSや動画配信で収益を得る「Kidfluencer(子どものインフルエンサー)」は、その典型例です。動画配信などは従来の労働の枠組みに当てはまらないため、一般の労働者のような保護下に置かれていません。一方で、著名人の子どもは写真を撮られる機会も多く、プライバシーが無いかのようにも思われがちですが、実際には経済力や社会的地位を背景に、弁護士や専門家を通じて法的に自己防衛できる立場にあります。実際、ウィリアム皇太子とキャサリン妃の子どもたちが休暇中に撮影された写真が雑誌に掲載されましたが、夫妻はプライバシー侵害として法的措置を取り、勝訴しました。しかし、一般家庭の子どもが同様の被害に遭っても、同じような対応を受けることはほとんどありません。

結局のところ、私たちのプライバシーにとって最大のリスクは、オンライン上での露出があまりにも日常化してしまったことにあります。私たちは、自らの個人情報を差し出すことと引き換えに、オンラインサービスへのアクセスや、利便性の高い体験、様々な恩恵を手に入れてきました。しかしその大きな代償に、被害が起きるまで気づきにくいのが現実です。子どもたちは、社会の中で最も脆弱な存在であり、彼らを取り巻くリスクは深刻です。幼少期から標的にされている上、被害の影響は一生続く可能性もあります。SNSに投稿する前に、今一度立ち止まって考えることは確かに必要です。しかし状況を本当に改善するためには、全ての人が自分のプライバシーを自分自身で管理できるようにする、国境を越えた体系的かつ実効性のある保護システムが不可欠なのです

ソファで父親と小学生の子供2人が一緒にノートパソコンを使っている

ゲストライター K. Kanliによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


Learning Cycle Logo

私たちLearning Cycleと共に、DEIの取り組みを深めましょう。ワークショップや成功事例を参考に、皆さんの組織やチームをさらに強化することが出来ます。詳細はこちらからご確認ください

Top Posts This Week


Learning Cycle Editorial Team

世界各国のスタッフライターから、旬なDE&I関連ニュースやトピックスをお届けします!

私たちは、社会や職場におけるダイバーシティの促進に日々全力を注いでいます。DE&Iの浸透に向けて、グローバルの色々な意見に触れてみてください。(更新日は毎週火曜日、木曜日を予定しています。) まだ一般的には数少ない、「DEIイベント・セミナー」も毎月ご紹介しています。こちらも是非お勧めです!

日本語と併せ、オリジナルの英語バージョンもお読みください。尚、時差と公開タイミングの関係から該当ページが表示されない場合があります。


Categories


In Association With

聴くテレ朝「ホンマのホンネ」(株式会社テレビ朝日)
サストモ(LINEヤフー株式会社)
「Pride Action30」特設サイト(パナソニック コネクト株式会社)