2024年6月2日、メキシコではクラウディア・シェインバウム氏が初の女性大統領に選ばれるという、歴史的な瞬間を迎えました(就任は本年10月1日)。シェインバウム氏は左派のモレナ党から出馬し、対立候補のソチル・ガルベス氏に対して約60%の得票率で勝利しました。過去最多の暴力事件が発生しているメキシコで、特にジェンダー問題に関連した殺人やフェミサイド(性別を理由に女性を標的にした殺人)が多発する厳しい状況下での選挙結果であり、彼女の勝利は多くのメキシコの人々に希望を与える光となっています。
豊富な社会経験を持つ新大統領
クラウディア・シェインバウム氏の経歴はとてもユニークで、物理学および環境エンジニア(自然環境を保護・改善するために科学技術や工学の知識を活用する専門家)として豊富な経験を持っています。彼女はカリフォルニアで、メキシコのエネルギー消費パターンの研究を行い、気候変動関連の知識を深め、2007年には「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の一員としてノーベル平和賞を共同受賞しました。こういった経歴と、学生時代に参加した社会運動などの活動がきっかけとなり、2000年にメキシコシティ市の環境大臣に任命されました。奇しくもその時メキシコシティ市の市長を務めていたのが、マヌエル・ロペス・オブラドール現メキシコ大統領です。シェインバウム氏はその後もモレナ党に在籍し、2018年にはメキシコシティ市初の女性市長となりました。
北米における歴史的な選挙
この2024年の選挙では、主要政党の双方が大統領候補に女性を擁立したことで、北米では歴史的な出来事として受け止められました。野党連合(PAN-PRI-PRD)の候補にはソチル・ガルベス氏、与党連合(MORENA-PT-PVEM)の候補には今回当選したシェインバウム氏。選挙の結果はシェインバウム氏の勝利で「北米初の女性大統領」の誕生となり、これは性別と職業を結び付けていた古い考え方、女性が大統領になるなど有り得ないといった風潮が大きく変化しつつあることを印象付けました。彼女は勝利演説で、「200年間のメキシコの歴史の中で初めて、女性が大統領になります。色々な場面で機会あるごとにお話ししていますが、私はこの場所に一人ではなく、多くの姉妹たち、祖国を支えてきてくれた女性の英雄たち、祖先、母、娘、そして孫たちと共に立っているのです」と語りました。
メキシコに今もなお残るジェンダー問題
女性が大統領選挙に勝利したことで、ジェンダーに関する偏見を大きく変えるポイントになるのは確実です。しかしながら、メキシコでは依然として厳しい女性差別や、ジェンダーを理由にした暴力事件が日々起こっている現実もあります。実際、メキシコはフェミサイド発生率が世界で最も高い国で、毎日約10人の女性が殺害され、しかもそれは増加傾向にあるとのことです。メキシコは今年初めに、女性議員の割合で世界4位にランクイン。更に北米初の女性大統領誕生など、政治におけるジェンダーの包括性において確実に成果を上げていますが、ジェンダーに関する深刻な課題は解決されないままです。シェインバウム氏の勝利は、ラテンアメリカの女性たちが権利を追い求め、暴力と闘うまさに真っ只中で実現しました。ジェンダー問題と暴力が横行する国で、女性大統領が就任する。こういった両極の事態が、1つの国で実際に同時に起こっているわけです。この選挙では、シェインバウム氏が左派であるモレナ党から出馬したことで、メキシコはジェンダー問題に対してより進歩的な政策へと転換していくのではないかと考えられています。フェミニズムには厳しいスタンスを取ってきたロペス・オブラドール現大統領とは、方針や政策が大きく変わる可能性が高いのです。今年ピューリッツァー賞(伝記部門)を受賞した、メキシコのフェミニスト作家のリベラ・ガルサ氏は著書の中でこう言っています。「メキシコにおけるジェンダーの公正と正義は緊急且つ深刻な問題であり、決して後回しに出来る状況ではない。このことを次期大統領が正しく認識し理解する能力を有しているか。そこが重要なポイントだ」と。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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