ノンバイナリーと採用バイアス|仕事の評価は性を越えて

アメリカでは、LGBTQ+成人コミュニティのうち約11%が「ノンバイナリー」として性自認していると推定されます。実数に換算しますと、これは約120万人に相当し、ほとんどが30歳未満とのことです。National Center for Transgender Equality(全米トランスジェンダー平等センター)によれば、ノンバイナリーとは「男性や女性のどちらにも当てはまらないセクシャリティを表す言葉の一つ」と定義されます。そのため多くのノンバイナリーの人々は、従来の性別を基準とした人称代名詞「she/her」「he/him」を使用せず、代わりに性別を特定しない「they/them」を単数形として使用しています。

採用バイアスとノンバイナリーへの先入観

ところがBusiness.comが2023年に行った調査では、履歴書に「they/them」のジェンダー代名詞を使うことで、企業側に「採用バイアス(無意識または意図的に特定の候補者を優遇したり不利に扱ったりする偏りや先入観のこと)」が生まれる傾向にあることが確認されました。実際にこの調査では、ジェンダー代名詞「they/them」を記載した履歴書と、記載されていない履歴書の両方を企業に提出した上でその結果を比較しています。すると「they/them」のジェンダー代名詞を使用した方が書類審査を通過しにくいことが判明しました。しかし、こういった差別はノンバイナリーの人々に対してだけではありませんでした。「he/him」「she/her」など従来の人称代名詞を使用して書かれた履歴書すら、人称代名詞が書かれていない履歴書よりも、採用担当者の関心度が5%も減少するということが分かったのです。そして「they/them」を使った場合、更に採用率が下がる結果であったことは言うまでもありません。

職場の状況で左右されるノンバイナリーへの偏見と差別 

こういった状況は、実際には職場の環境やLGBTQ+の受容度によりかなり変わります。たとえば、女性として生まれたノンバイナリーの人が男性の多い職場に応募すると、シスジェンダーの女性(心も体も女性)が応募した場合に比べて、採用担当者による良い評価が11%前後低下することが分かっています。逆もまた然りで、男性として生まれたノンバイナリーが女性の多い職業に応募した場合も同様の結果となります。

大半のノンバイナリーの人々は、就職活動中にこういった偏見や差別に出くわすことを覚悟していて、約半数(51%)の人々は履歴書にジェンダー代名詞「they/them」を使用することで就職に不利になると考えているようです。逆に有利に働くと考える人は8%と、ごくわずかです。

代名詞に伴う誤解を乗り越える

それではなぜ、採用担当者はノンバイナリーの採用に消極的なのでしょうか? アメリカでは性別に対する意見が国内でも様々に分かれており、65%の人は、性別は男女2種類だけではなくそれ以外もあり得ると考えています。それでもノンバイナリーの採用率が低いいくつかの理由として、こういった「他者の代名詞の議論」は職場ではなくプライベートで行われるべきだという意見があったり、ノンバイナリーの従業員が職場でジェンダーについて過剰反応などの問題を起こすのではないかという懸念が人々の間に存在することなどが上げられます。採用担当者の中には、彼らは優秀な従業員にはなり得ないと断言する人までいます。

また企業の中には、ノンバイナリーの従業員が「they/them」を使用することで、社内にいらぬ混乱が生じるのではないかという懸念の声も聞かれます。実際にResume Builderの調査によれば、経営者のうち約15%が、「従業員がthey/themのジェンダー代名詞の使用を希望した場合は、許可しない方針である」と回答したとのことです。

ノンバイナリーの従業員に対して否定的な考えが多いのは、そもそも「彼らがどのような感覚の人々なのか分からない」という漠然とした不安も影響していると思われます。しかしながら従業員としての彼らの能力や力量を確認する機会すらなければ、採用担当者はこれからも間違った先入観でノンバイナリーの人々への偏見を抱き続けることとなり、みすみす優秀な人材を逃してしまうかもしれません。ブラインド採用(採用において応募者の名前、性別、年齢、人種など伏せ、スキルや経験に基づいてのみ評価を行う採用手法。無意識の偏見を排除し、公平で多様性に富んだ採用のために用いられる)が1つの解決策として挙げられていますが、残念ながらそれも完璧な方法ではありません。Harvard Business Reviewによりますと、マイノリティの人々はブラインド採用の方が一般の採用プロセスより高い確率で書類審査を通過し、面接試験まで進むことができたそうです。しかしながら、ブラインド採用は言うほどシンプルな解決策ではなく、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)への取り組みを促進する一方で、多様な人材プールを積極的且つ計画的に構築しようとする企業にとっては弊害となる可能性もあるのです。

恐らく、より良い解決方法として考えられるのは、職場でそれぞれの人称代名詞を特別視せず、より自然な話題として扱うことです。例えばビジネスで使用するメールの署名に代名詞をカッコ書きで追加したり、オフィスでそれぞれがどの代名詞を使いたいかを共有したり、「ビジネスマン」ではなく「ビジネスパーソン」といった「ジェンダーニュートラル」な言語を積極的に使うことなど、様々考えられます。このような状況が職場での日常となり、特にジェンダーニュートラルな代名詞の使用が一般化すれば、「they/them」をノンバイナリーの人々が使うことで起きる混乱や誤解が解消され、より一層のDEI促進への可能性が生まれるのではないでしょうか。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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