読書は私達の趣味であり、ライフワークであり、人生に様々な気づきを与えてくれるものです。しかし本を選ぶときには、偏りなくさまざまなジャンルや作家の作品に目を向けることが大切です。個人の経験を超えた本との出会いは、多様性・公平性・包括性(DEI)を私達の価値観に取り入れるきっかけにもなります。また、幅広い分野の本を読むことで他者への理解と共感性が高まり、仕事やプライベートでの人間関係を改善する効果もみられます。自分とは全く異なる様々な考えに触れることで自らの偏見に気づき、多様な文化に対する公平な感覚を養うことができるためです。
しかし概して男性は、無意識のうちに男性作家の作品を好む特徴があるといわれており、このことは読書の世界にもジェンダーバイアス(性別に対する偏見)が存在していることを象徴しています。ある調査でも、本のジャンルやテーマに関わらず、男性は女性作家の本をあまり読まないという結果が出ています。作家の性別で作品を選ぶことが、その人個人の成長や多文化への理解を自ら狭める結果となってしまうのは明らかです。また男性は女性に比べて読書量が少ないことから、更に多くの作品に触れる機会を逃していると言えます。
本の選択にもジェンダーバイアス
フィクションや回想録など、女性作家が得意とするジャンルでも、男性は圧倒的に男性作家の作品を選ぶ傾向があります。現に、女性のベストセラー作家上位10人の読者のうち男性はわずか19%であるのに対し、男性のベストセラー作家上位10人では男性読者55%、女性読者45%と、かなり均等なバランスであることが分かります。歴然とした両者の差は、「女性作家の本は家庭的なテーマが多く、男性読者には共感しにくい作品が多い」という男性側の先入観から来ています。社会の風潮、メディアによる報道、出版書籍の宣伝活動などによってこの傾向はさらに加速し、一部の女性作家には自分自身の性別や実名などを敢えて公表せず、社会から先入観のない評価を受けようとする人もいます。このような状況は自分たちの偏った考えが原因であること、そしてより豊かな視点を持てる絶好の機会を自ら逃していることに、男性たちは気づかないままでいるのです。
上述のような調査結果をみていると、女性は男性の主人公に共感できる一方、なぜ男性は女性の視点に立とうともしないのかという疑問が生まれます。それは恐らく、男性は社会通念的に女性作家の作品を「女性的」と見なす風潮がある一方で、女性は出版物やメディアにおいて男性的な物語や考えに日々触れていることが背景にあると考えられます。様々なニュース報道やエンターテイメントを見ても男性の優位性が目立ち、職場でのリーダー職や上級管理職の多くを男性が占める世界の状況を考えると、さほど驚くことではありません。現代は、男性の方が優れているという「デフォルトの偏見」が人々の間に未だ存在し、女性作家の作品は過小評価され、「異質なもの」として扱われる現状があります。

ベストセラー作家上位10人に対する読者男女比
Graph data: Nielsen Book Research via The Guardian
読書ジャンルを広げる意義
たとえ無意識だったとしても、女性作家の本を読まないという選択は、自らの世界観を広げるチャンスを自ら逸することに繋がります。女性作家の作品には、レジリエンス、人それぞれのアイデンティティ、社会の変革といった幅広いテーマがあり、作家独自の視点や感情の深みを味わうといった醍醐味があります。固定観念の打破に常に挑戦し、すべての読者にとって関連性のある視点で書き綴られるといった特徴もあります。女性作家の作品は男性作家には無い強みや特徴を持っているのですから、性別を理由に選択肢から外してしまうのは得策ではありません。凝り固まった固定観念や先入観が修正されるチャンスを失い、結果的に他者への共感性を磨く可能性も同時に失ってしまうからです。
本を通じて新しい価値観に出会おう
読書の幅を広げるために、普段の好みとは敢えて違うジャンルや作家の作品を手に取るのも良い方法です。女性作家による優れた小説を表彰する、イギリスの「ウィメンズ・プライズ・フォー・フィクション」など、様々な文学賞で高評価を得た女性作家の本のリストも参考になります。同様に、白人やシスジェンダー、異性愛者といったマジョリティー的な価値観を持つ読者にとっては、有色人種やLGBTQ作家による作品を読むことで視野を広げることができます。色々な作品に巡り合う機会をもたらす読書会に参加したり、友人におすすめの本を聞いたりすることで、今まで余り馴染みが無かったジャンルの本を選ぶ過程がもっと簡単で楽しいものになるはずです。
自分のコンフォートゾーン(安心領域)から一歩踏み出せば、私たちは自分とは違う世界への理解を一層深め、人生を豊かにする物語に出会えます。自分とは異なる背景を持つ人々の声に耳を傾けることは、多様性に富んだ本の世界が広がるだけでなく、共感力やインクルーシビティを育むことにもつながります。
読書習慣や本の選択を自ら広げること。それは、個人の成長、多文化理解、そしてより公平な社会を実現するための素晴らしい「旅」でもあるのです。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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