Credit: Handelsbanken Denmark, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
大企業に対して抱くイメージを聞かれたとき、「信頼性」を思い浮かべる人は一体どれくらいいるでしょうか。アメリカに拠点を置く非営利調査機関「ピュー・リサーチ・センター」によると、大企業に対して信頼を寄せるアメリカ人はわずか29%である一方、中小企業への信頼度は86%という結果が出ています。大企業からはどうしても「儲け主義」の印象がぬぐい切れませんが、中小の企業はその存在が地域社会と密接に結びつき、活力の一部となっています。そして小規模の企業が持つ「ローカル」や「家族経営」といった良いイメージも、好印象である理由であると考えられます。

Credit: 大企業や中小企業が社会に良い影響を与えていると答えた人の支持政党別割合, Pew Research Center, Washington, D.C. (February 1, 2024)
企業への不信感と現実を知らない経営陣
企業が事業を成功させるためには、消費者と従業員双方からの信頼を得ることが非常に大切です。しかし経営幹部の多くは、自らの会社に対する周囲からの信頼度が実際どれ位なのか、正確には把握しきれていません。消費者からの実際の信頼度は30%程度しかないにもかかわらず、彼らは90%の信頼を得ていると信じています。従業員に関しても同様で、実態は67%の信頼度であっても、86%の従業員から支持されているという思いこみがあるのです。顧客の信頼を失えば別の企業に売り上げが流れますし、従業員が会社を信頼しなくなれば彼らの仕事への意欲は失われていきます。その結果として、製品やサービスの品質、業務の効率、そして収益性が低下していきます。
企業収益の土台は信頼です。それが今、産業全般で低下の一途をたどっています。様々なことに対する不信感が蔓延る現代において、一度失った信頼をどうやったら取り戻せるのか。その答えの一つが「利他主義(アルトルイズム )」にあります。企業の利他主義という概念は、消費者や社会の幸福を第一に考え、利益はその次、という考え方です。通常、企業による社会貢献は、利益に影響がない範疇で行われるのが一般的です。ところが、中にはそれ以上の取り組みにより成功を収めている企業が存在します。
アルトルイズムを実践する企業
具体的な成功事例として、スウェーデンのハンデルスバンケン銀行が挙げられます。ハンデルスバンケン銀行は顧客ニーズにしっかりと焦点を当て、不要なクロスセル(関連商品の追加販売)や自社製品の無理な販促を行わないスタイルを貫き、競合他社を圧倒しています。特にコロナ禍においては、経済的に困難を抱える顧客に銀行スタッフが金融上のアドバイスを提供し、緊急対応が必要な場合には不休の体制で迅速に対処しました。こういった企業姿勢が市場に評価され、同行の株価は1900年以来、190万倍まで上昇しています。
また、アメリカのアウトドア衣料品メーカー、パタゴニア社もアルトルイズムを実践する企業として有名です。創業者のイヴォン・シュイナードは50年間所有していた自社株を売却し、その巨額な利益を地球温暖化対策に投じました。同社の株式は現在、気候変動問題に取り組む財団や非営利団体によって保有されており、地球保護という大きな目的のもとに年間約1億ドルの寄付が見込まれています。
損得を超えた存在価値
それでは、利益を最優先と考えないこれらの企業は、どのようにして経営を維持しているのでしょうか。「企業の利他主義」が成功に結び付く理由は、従業員や顧客、その他のステークホルダーに焦点をあてることで、組織内のイノベーションや競争優位性が磨かれる点にあります。その結果、より良い人間関係や職場環境を築きあげられ、より多様で優秀な人材や企業に有益なネットワークに繋がることが可能となります。ニュースレターのオンラインサービスを提供する「Newsletter Pro」によると、利他主義を実行している企業では、従業員に有給休暇(PTO:Paid Time Off)や医療保険などの充実した福利厚生を提供し、健全なワークライフバランスを推奨することで、従業員の満足度を高めているそうです。こういった対応で従業員の「燃え尽き症候群」を未然に防ぎ、離職率も減少させることが可能です。一方で、福利厚生の利用に制限を設けたり、従業員に過剰な業務を課すような企業も残念ながら一部存在します。そのような企業では従業員の健康問題が多く発生することから医療費が増加し、その体質自体がコスト全体を押し上げることとなってしまいます。
企業にとって利益はもちろん重要ですが、過剰な執着はあだとなり逆効果です。目先の利益に振り回され、業績が長期的に不安定となることもありますし、理念に沿わない意思決定により高額な訴訟を起こされるケースもあります。従業員のウェルビーイングや、地球環境やコミュニティを考慮した製品やサービスを優先することは、従業員の士気や企業へのロイヤリティを高めるだけでなく、顧客からの信頼もより強固なものにします。長期的に見れば、「企業の利他主義」は善い行いであるだけでなく、企業にとって賢明な投資になり得るのです。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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