女児が見落とされるADHDの診断|性別と医療の不平等な関係

ADHD(注意欠如・多動症)は、子どもから大人まで幅広い層に見られる、一般的な精神疾患です。不注意や衝動性、落ち着きのなさといった特徴があり、日常生活はもとより、学業や仕事、人間関係にも影響を及ぼします。私が大学在学中にメンタルヘルスの啓発キャンペーンの企画に取り組んだ際、ADHDをはじめとする精神的な問題が、社会的マイノリティの間でとくに深刻化している実態を知りました。その背景には、この疾患に対する知識の不足、偏見の存在、そして正確な情報が届きにくい状況があることが分かりました。制度上の壁や社会に根づく不平等によって、多くの人々が必要な支援にたどり着けていないことを痛感しました。

偏った診断基準と偏見が生む誤診

近年、ADHDへの理解は広まりつつありますが、女性や黒人などのマイノリティ、低所得層に対する診断や治療には、大きな格差が見られます。現行のADHDの診断基準は、多動など主に男児に見られる典型的な症状を基準としており、女児に多い「集中力の持続が難しい」「物忘れが多い」「整理整頓が苦手」といった特性が見逃されるケースが多々あります。その結果、女児に表れた症状が、性格上の問題や努力不足と解釈されることも少なくありません。こうした制度的なジェンダーバイアスはスピーディーな診断の妨げとなり、もともと支援が届きにくい立場にある人々を、さらに困難な状況へと追い込んでしまいます。

さらに、人種や文化に対する無意識な偏見や固定観念により、医師が患者の行動観察を行う際に判断に偏りが生じ、誤診や見落としを引き起こすことがあります。

ADHD診断に関するさまざまな統計を示すインフォグラフィック

Credit: Michael Guerrero via Pintrest

たとえば、黒人や中南米系の子どもは、白人の子どもと同じ症状が見られても、ADHDと診断される割合が著しく低いことがわかっています。また、多くのマイノリティのコミュニティでは、ADHDという疾患そのものがあまり知られておらず、しつけや性格の問題と片づけられてしまうこともあります。こうした状況に加え、マイノリティの人たちは長年にわたる医療格差や制度的不平等によって医療機関への不信感が根強く、受診をためらう要因にもなっています。

年代別ADHD初診患者の年間発生数

ADHD初回診断時の年齢分布と推移
Credit: EpicResearch.org


地方医療体制の不備と早期対応の重要性

そもそも、精神医療を受けられる体制が十分に整っていなかったり、仕組みそのものが不平等であることが、診断への大きな障壁となっています。とくに地方に暮らす家庭では、ADHDの専門医に診てもらうために長い距離を移動しなければならず、診察まで長時間待たされることも珍しくありません。さらに、経済的に厳しい家庭や、医療保険に加入していない子どもたちには、そもそも医療にかかること自体が難しい現実があります。その結果、早期治療が困難となり、子どもたちの日常生活や成長に与える影響が拡大してしまいます。ADHDの患者たちは、不安障害やうつ病、薬物依存など二次的な問題を抱えるリスクが非常に高く、極めて深刻な状況です。

動き始めた公平な医療

こうした格差を是正し、支援が届きにくいコミュニティの子どもたちにも早期発見と適切な治療を行うため、アメリカ小児科学会(American Academy of Pediatrics)などの団体は、すべての子どもを対象にした行動特性の簡易スクリーニングの実施を推奨しています。一方、専門医の知識や技術を遠隔地の医療従事者に広げるオンライン研修プログラム「プロジェクトECHO」を通じて、ADHD診療を担える人材を増やす試みも行われています。ただし、こうした取り組みには進捗のばらつきや制度上の混乱があり、現場が追い付いていないケースが散見されます。たとえばカリフォルニア州では、学校現場を拠点としたメンタルヘルスプログラムに予算を投じ、精神疾患への早期介入を支援しているものの、保険の適用範囲は限定的。文化的背景への理解や、ADHDを病気ではなく個性として捉える神経多様性などの医療教育も、依然として十分とは言えません。一方、オーストラリアではADHD治療薬へのアクセス改善に向けた制度改革が進められる中、薬の供給不足、地域や制度によって異なる規制、かかりつけ医への支援の乏しさなど、解決すべき課題は依然として山積みです。

健康格差は目に見えにくい問題であるがゆえに、軽視されがちです。しかし、ADHDのような疾患が本人や家族、そして社会に与える影響は到底無視できません。今こそ、診断と治療の不平等を解消し、偏見や制度の壁を乗り越えるための行動を起こすべきです。住んでいる場所、性別、人種、経済状況にかかわらず、すべてのADHD患者やその家族が必要な支援を受けられるよう、社会全体で取り組むことが重要です。

授業後、教室で女性教師からマンツーマンで教わる少女

ゲストライター G. Johnsonによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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