反移民とヘイトクライムに揺らぐ英国|偏った歴史教育が生む差別

昨今のイギリスは、多様性と人権保護の国であるというイメージを掲げていますが、ヘイトクライムの増加や極右思想の広がりに直面しているのが現実です。2024年には、3人のイギリス人の少女が殺害される事件をきっかけに、社会の緊張が急激に高まりました。当初、犯人はイスラム教徒の移民だという誤った情報が広まり暴動へと発展。後に、実際の犯人はイギリス生まれの男だったと警察が発表したものの、イスラム教徒や移民への反発的な感情はすでに根強く広がってしまった後でした。

これに対し、キア・スターマー首相は当時次のような声明を発表しており、事態の深刻さが伺えます。「この国の人々には安全に暮らす権利があります。しかし、実際にイスラムのコミュニティが標的にされ、モスクが攻撃され、少数派の人々が狙われています。街中でナチ式敬礼が行われ、警察への攻撃もあり、人種差別的な言動や無差別の暴力が起きています。犯罪は犯罪です。政府はこれに毅然と対処します。」

不安が生みだす憎悪

イギリスでは、人種差別がしばしば、社会からの疎外感や失業、自分の居場所の喪失といった不安や不満のはけ口となっています。極右的なナショナリズムには、自らの不満をマイノリティの人々にぶつけることで解消する、現実逃避の傾向があります。実際、あるイギリス人男性は自身の失業を「移民のせい」だと語っていましたが、実は彼自身に暴行の前科があったといいます。自己にある要因には触れず、移民に責任を転嫁する典型的なパターンです。

残念ながら、こうした不安はしばしば憎悪へと転化します。1960年代末に労働者階級の若者の間で生まれた「スキンヘッズ」は、1970年代に入ると、景気後退や失業の影響を受けて攻撃的なスタイルへと変化しました。その頃、他の若者文化にも、政治的なメッセージや暴力的な側面が見られるようになります。極右やファシズム的な国民戦線などの政治団体も、排他的な価値観を掲げて台頭していきました。

背中に悪魔のようなタトゥーを入れた人物を含むスキンヘッズのグループ

Credit: andrew, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

さらに、2012年に導入された「敵対的環境政策(Hostile Environment policy)」は、非正規移民に対し就労や住居、医療へのアクセスを制限。そして反移民をあおる公共広告キャンペーンで、移民たちに「イギリス人ではない」と烙印を押し、犯罪者のように描くことで、人々の意識に偏見を植え付けていったのです。

自らの過ちを直視しない教育

イギリスの教育制度もまた、帝国主義の歴史を美化することで問題を助長してきました。学校のカリキュラムでは、植民地支配や奴隷貿易といった負の歴史にはほとんど触れず、移民コミュニティがイギリスの発展に大きく貢献した事実も十分に教えられていません。私自身ロンドンで教育を受けましたが、王室の系譜やネイティブ・アメリカン、ホロコーストといったテーマは歴史の授業で扱われました。しかしそれらは「他国が犯した罪」を強調するものであり、イギリスが自ら行った加害の歴史については学ぶ機会がありませんでした。イギリスが植民地から得た資源や労働が、どのように国の発展に寄与したのかも、カリキュラムには含まれていませんでした。

たとえば、イギリスには「ウィンドラッシュ世代(Windrush Generation)」と呼ばれる移民の人々がいます。彼らは第二次世界大戦後の労働力不足を補うため、イギリス政府の呼びかけに応じ、1948年から1970年代初頭にかけてカリブ諸島から移住してきました。それにより市民権が付与され、イギリスで働き、暮らす権利が保障されていたはずでした。しかし、「敵対的環境政策」の時代に、移民の法的地位を証明する記録に内務省の管理不備があり、2010年には入国記録が破棄されていたことが明らかになりました。その結果、何十年もイギリスで暮らしてきた人々が正当な居住権を証明できず、不法滞在者とみなされ、医療サービスの制限や拘留、さらには不当な強制送還にまで発展しました。

11年から22年においてイングランドのヘイトクライム発生件数の増加を示すグラフ

人種や宗教を理由としたヘイトクライム発生件数(警察調べ)
Credit: UK Home Office via CNN World


教育の変化からインクルーシブな社会へ

イギリスが抱えるこの問題を本気で解決するには、まず、過少報告されているヘイトクライムを正確に把握し、厳格に取り締まることが不可欠です。そして、人種差別の根底にあるネガティブな感情に向き合うために、学校教育において単なる事実や数字を学ぶだけでなく、マイノリティの人々の歴史や文化、構造的な不平等、そして社会への貢献を理解する「インクルーシブな心」を育むことが欠かせません。

同時に、社会からの孤立を減らし、互いに支え合える強いコミュニティを育てることで、人々の不安や恐怖が和らぎ、異なる背景を持つ人々への共感が生まれるはずです。こうした努力や取り組みによって、単なる多様性がある社会ではなく、本当の意味でのインクルーシブな社会を築くことができるのです。

ゲストライター K. Kanliによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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