世界は今、高齢化の時代へと確実に進んでいます。平均寿命は延び続ける一方、出生率の低下には歯止めがかかりません。世界保健機関(WHO)によると、2030年までに世界人口の6人に1人が60歳以上となり、2060年にはその数が倍になると予測されています。
従来、高齢者が多く若年層が少ない「逆ピラミッド型」の人口構成は、経済成長を鈍化させると考えられ、社会の生産性は低下すると言われてきました。労働人口が減少する中で、現役世代が年金や医療制度を支えるための税負担を背負い、増え続ける高齢者の日常的なケアにも向き合わなければならない。そうした構図が根底にありました。
こうした課題は確かに存在しますが、人口構成の変化を「負担の増加」という側面だけで捉えてしまっては、全体像を正しく把握することはできません。現代の高齢者は以前に比べて寿命が延びており、多くの国では高齢者世代に富が集中しているという現実もあります。このような状況を背景に、高齢者を重要な消費者層として捉えた商品やサービスの開発に取り組む企業が増えており、「シルバーエコノミー」という考え方が広がっています。
ネット利用は若者だけという誤解
シルバーエコノミーとは、高齢者に関連するあらゆる商品やサービスを指します。高齢化がもたらす課題だけでなく、そこに広がるポジティブな可能性にも目を向ける考え方です。
現在、オンラインを中心とした多くのトレンドはZ世代が牽引していると見られがちで、「ネットショッピングをするのは若者だけ」と考えている企業もいまだに少なくありません。確かに高齢者にとってデジタル環境への適応には一定のハードルが存在しますが、実際には多くの高齢者が積極的にオンラインを活用しています。2023年時点で、高齢者は世界全体の消費の約4分の1を占めており、ネットショップと実店舗の間に大きな購買意欲の差は見られません。

世界の年齢別人口構成の変化予測(1950–2100年)
Credit: Max Roser from OurWorldinData.org, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
子ども向けから高齢者向けにシフト
こうした変化を受け、高齢世代を意識した商品展開に動く企業も多数現れています。日本では、あるおむつメーカーが主軸商品をベビー用から大人用へと切り替えました。これは、長寿化と少子化によって消費構造が変化していることを象徴する事例です。
また、認知機能を刺激する製品やサービスも増えています。高齢者が実際に求めているのは、子ども向けのような幼稚なものではなく、主体的に楽しめて知的好奇心を刺激するような娯楽です。こうした認識が広がる中、事業の中心を子ども向けから高齢者向けへと大きく転換する玩具メーカーも出始めています。
高齢化社会と経済をテーマに活動する国際団体「Global Coalition on Aging」によれば、現代の高齢者は好奇心旺盛で、デジタルにも積極的であり、新しい商品やサービスを前向きに受け入れる傾向があるとされています。また、高齢者は一度信頼したブランドに対して強い愛着を持ち、長く購入し続ける傾向があるため、企業にとってその存在は決して小さくありません。このような状況を踏まえ、高齢者を対象としたビジネスは医療やヘルスケア分野にとどまらず、旅行やファッション、オンラインサービス、生活に関わるデジタルテクノロジーなど、幅広い分野での成長が期待されています。
例えば、ドイツのビールブランドは、通常より苦味の強いビール「Beck’s 70+」を発売し、ユニークなプロモーションと共に高齢者を意識した商品設計が注目を集めています。また、1848年創業の中国の老舗ジュエリーブランドLao Feng Xiangも、AI技術を活用したスマートグラスを高齢者向けに発表するなど、伝統的な宝飾品の枠を超えた商品展開に乗り出しています。今後も増え続ける高齢者世代の関心をうまくつかめれば、彼らは企業にとって強力なリピーターとなり、市場に新たな価値をもたらしてくれるはずです。
高齢化をポジティブに活かすシルバーエコノミー
高齢者人口の増加により、消費の中心となる世代が変わり、市場の成り立ちや構成そのものが今後も世界規模で変化していくのは確実です。こうした中で、企業には、高齢者が安心して豊かな老後を迎えられるような商品やサービスをどのように提供していくかが求められています。
高齢者団体を支援したり、世代間の連携を促す取り組みなど、シルバーエコノミーを前向きに捉える姿勢は、これからの市場において重要な意味を持ちます。これまで若年層を中心に設計されてきた消費市場は、今まさに大きな転換点にあります。今後、高齢者に向けた商品やサービス設計は、経済のレジリエンスを高め、長期的で持続可能な成長に欠かせない要素となっていくでしょう。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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