ヘルスリテラシーで変わる生活の質|知識と行動で育む健康

健康維持に必要な正しい情報を取捨選択し、十分に理解して日常の行動に活かす能力を「ヘルスリテラシー(Health Literacy)」と呼びます。同じ国内であっても、それぞれの社会的背景や経済的余裕によって、ヘルスリテラシーには大きな差が見られます。

例えば多くのマイノリティの人々は、医師が患者の話に十分耳を傾けず、適切な診断が行われないなど、医療現場で不利な扱いを経験してきました。そのため医療機関をはじめ、自らのコミュニティ外からの情報に対し、どうしても疑心暗鬼になりがちです。こうした背景から、彼らは信頼できる健康情報を十分に得られず、それを日常の行動に結びつけることは更に難しくなっています。

一般にヘルスリテラシーが低い人は、自身の健康状態や疾患を適切に管理できず、服薬や服用量を誤ったり、入院が増えるなどの傾向が見られます。また、罹患率や死亡率も高く、必要な医療サービスを十分に利用できないなど、様々な問題に直面しやすくなります。

健康情報は増えても改善されない国民の健康

健康に関して信頼性の高い情報が増えているにもかかわらず、ヨーロッパでは依然としてヘルスリテラシーの低さが課題となっています。2015年にヨーロッパで行われた比較調査では、人口のおよそ47%が、調査で最も低いレベルである「不十分な」ヘルスリテラシーに該当していました。

またアメリカでは、ヘルスリテラシーは収入や学歴、雇用状況、人種といった要素より、健康状態を左右する強い要因だとされています。それでもなお、自分の住む地域の医療サービスについてよく知らなかったり、十分に活用できていないといった人々が、世界各地に存在しています。

学歴別のヘルスリテラシーレベルを割合で示したグラフ

学歴とヘルスリテラシーの関係
Credit: Health Literacy Statistics 2025 via Market.us Media


あふれる誤情報で高まる不信感

もともと健康への知識や理解が不十分であることに加え、世の中に氾濫する多くの誤情報によって、ヘルスリテラシーの向上が大きく妨げられています。こうした誤情報は、地域の人々の健康状態を悪化させ、社会全体にダメージを与えます。

ここ数十年、一部の人々の間ではワクチン接種に慎重な姿勢を示す向きがありましたが、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、その傾向は一般社会にも広がりました。ワクチン接種はかつて、歴史上最も大きな公衆衛生上の成果の一つと考えられてきました。しかし近年では、ワクチンへの不信感や効果を疑問視する動きが強まり、接種率が低下したことで、ワクチンで予防可能な感染症の再流行が起きています。

人々の健康は国の取り組み方で大きく変わる

ヘルスリテラシーは個人の責任として語られることが多いものの、実際には国の政策や各種社会制度も、人々の健康に大きな影響を与えています。政府主導で地域の特性に合わせた健康啓発キャンペーンを実施したり、各コミュニティで健康教育を担う人たちを支援することで人々との信頼関係が生まれ、それが健康状態の改善にも良い影響をもたらします。

もっとも、政府が「1日1万歩」などの運動促進施策をいくら行っても、それを日常に取り入れる環境が整っていなければ十分な効果は期待できません。例えば自転車レーンや歩行者専用道路が不足していたり、ジムが利用しづらかったりすると、国のメッセージは空回りしてしまいます。また、「健康的な食事を心がけよう」と呼びかけたところで、新鮮な食品を入手しにくい地域、いわゆる「フードデザート」の解消に取り組まなければ、国や自治体からの発信は実効性を持たないものとなります。

日本は、ヘルスリテラシーの向上に加え、誰もが利用しやすい医療の整備に力を入れる国の一つです。各自治体は、定期健診の重要性を簡潔で分かりやすいメッセージで繰り返し発信しています。また、一部のワクチン接種に対して補助を行い、必要な予防医療を適切な時期に受けられるよう促進しています。こうした情報が公的機関から発信されることで、教育水準に関わらず、多くの人々が信頼性の高い情報として受け取りやすくなります。

たとえケーキの材料がすべて揃い、作り方を知っていたとしても、必ずしも美味しいケーキができるとは限りません。同様に、健康に関する数々の情報を得て、何をすべきか分かっていても、それだけで健康が保証されるわけではありません。

世界がヘルスリテラシーの向上に取り組む中で、地域全体の健康を着実に改善するためには、健診や予防医療を受けやすい環境づくりが欠かせません。豊かに生きるために欠かせない、ヘルスリテラシーの向上と健康状態の改善は、社会的に弱い立場にある人々と医療をつなぐことから始まります。

メンタルヘルスのパンフレットを読んでいる女性

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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