スクール・ヘイトクライム|政治の思惑が学びの場に落とす影

FBIが公表した調査結果によりますと、2018年から2022年にかけ、全米の高校や大学でヘイトクライム(憎悪犯罪)の件数が急増していることが明らかになりました。2022年には1,300件ものヘイトクライムが報告されており、700件であった2018年から大幅な増加です。専門家は、この種の事件は公にされないケースが多いことから、実際にはこの数字よりも発生件数は多いと考えています。そして報告された件数のうち10%は高校や大学内で発生しており、学校はヘイトクライムが発生する場所の第3位となっています。事件の内訳は暴行や器物損壊、脅迫等であり、また被害者の多くはアフリカ系、ユダヤ系、イスラム系、またはLGBTQ+コミュニティの人々で、中でも特に黒人の学生たちの被害は深刻です。

社会的背景が若者や子供たちに与える影響

近年アメリカ国内では様々な思想や文化間の争いが続き、人々の思考や言動にも大きな影響を与えています。そのため、民族的・文化的・性的マイノリティが標的になること自体に驚きはありません。2020年にミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイドという46歳の黒人男性が、白人警察官によって拘束される際に死亡した事件。そして黒人に対する警察の暴力や体系的な人種差別に抗議し、黒人の命や権利を守ろうと訴えるブラック・ライブズ・マター運動。こういった社会的な動きへの反動が、黒人学生に対するヘイトクライムの増加につながったと言われています。また、ガザ地区での紛争が始まった際にはユダヤ人やイスラム教徒の学生に対する犯罪が増加したとの報告がいくつかの支援団体から上がっています。さらにワシントンポスト紙によりますと、反LGBTQ+の法案が可決された州ではLGBTQ+の学生に対するヘイトクライムが急増しているとのこと。これは政治が、意図的にそういった弱い立場の人々を追い込んでいることを多大に反映した結果であると同紙は報じています。

若年層におけるヘイトクライムが増加

アメリカ合衆国に本拠を置く非営利団体「Learning for Justice」の調査によれば、ヘイトクライムは高校生や大学生だけでなく、中学生、さらには10歳前後の子供たちの間でも発生していることが確認されています。また同団体は、近年はサードスペースが減少しつつあり、子供たちが多様性を経験する機会が少なくなったことが、こうした行動を助長しているのではないかとの見解を示しています。サードスペース(第三の場所)とは、自宅(第一の場所)、学校や職場(第二の場所)とは別に存在する、居心地が良くリラックスできる場所のこと。このサードスペースで、孤独や疎外感から離れ、新しい価値観や人とのつながりを得ることができると言われています。これはほんの一例ですが、10歳のイスラム教徒の少女が学校で「テロリスト」と呼ばれ殺害の脅迫を受けたり、ある中学生は自分の教科書に「先生の黒人の夫を殺す」と書き込んだりといった事例もあります。

しかし、こうした事件のうち57%の子供たちは懲罰処分を受けず、学校側もこうした事案には特段対処しないケースが90%以上に上ります。ヘイトクライムやいじめが子供たちの間で増加している現状に対し、学校側のこのような姿勢は非常に大きな問題です。

ゼロ・トレランス政策の成果と見直し

アメリカでは全50州において、ハラスメントおよびいじめ防止対策が義務付けられていますが、それがかえっていじめを助長しているケースもあります。98%の学校では、一切の妥協や例外を許さないという意味の「ゼロ・トレランス政策」が取られており、これは当初銃や薬物の持ち込みを防止するためのものでしたが、現在では軽微な行動違反にも適用されています。Forbes誌によると、このゼロ・トレランス政策を採用している学校への評価は低く、退学率は高く、刑事事件や薬物使用の問題等も学内で増加しているとのことです。これは、この政策が問題の生徒を罰するだけに留まり、彼らを取り巻く社会環境を改善することには未着手のためと考えられます。さらに、特定層の生徒、特に黒人や障がいのある生徒に対して懲罰的に使われることも多く、特に黒人の生徒は白人の生徒よりも2.6倍の確率で停学処分を受けています。実際にはこうした厳しい処分には該当しないことも多く、反発や混乱に繋がっています。

現在の対策では良い成果が表れず、むしろ教育システムを悪化させているならば、他にどのような解決策が考えられるのでしょうか。 そこは、学校環境の改善や「多様性・公平性・包括性(DEI)」を取り入れることが一つの答えになるかもしれません。研究としてはまだ不十分ですが、ある調査では、民族差別対策のワークショップや文化教育、多様性の向上などは、いじめや迫害の減少につながると示唆されています。学校がよりポジティブで多様な社会を育めるよう促進することこそが、ゼロ・トレランス政策に代わる最善の解決策なのかもしれません。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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