南米のアファーマティブアクション政策|クオータ制の成果と反発

世界中の学校や職場では、性別や性的指向、障がいの有無など、個々の多様な個性を尊重するグローバルトレンドに伴い、さらなる多様化が進んでいます。この動きに賛同する形で、1990年代以降、アファーマティブアクション政策が増加しました。アファーマティブアクション政策とは、歴史的に差別や不平等を受けてきた女性や少数民族などが、教育や雇用の機会で公平に扱われるようにするための積極的な是正措置(優遇措置を取るなど)を政策として実施することです。これは人々が人種や性別のみに基づいて採用されるという意味ではなく、生来の不利な立場にある人々が見過ごされないようにするためのものです。ただこうした政策には、格差是正やマイノリティの社会参加を促進するとの賛同意見がある一方で、逆差別として反対する声もあります。しかし南米では、このような施策がインクルーシブな社会実現への鍵となっているのも事実です。

アルゼンチンの多様性への取り組み

アルゼンチンは、職場での機会均等を図るため、いくつかのアファーマティブアクション政策を実施してきました。2010年にアルゼンチンがラテンアメリカで初めて同性婚を合法化した後、インクルージョンと多様性への動きが加速し、多くの組織や社会運動がこのアクションに追随してきました。アメリカ最大のLGBTQ+権利擁護団体である「ヒューマン・ライツ・キャンペーン」によると、2024年のアルゼンチンにおける職場でのLGBTQ+の採用は、前年比で120%増加したと報告されています。

2023年11月アルゼンチン、パラナで行われたプライドマーチ

Credit: Paula Kindsvater, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


社会におけるこのようなインクルージョンへの動きは、政府の様々な政策によって下支えされてきました。その一つが、多様な人口分布に対応するための「クオータ制」です。クオータ制とは、特定の集団やカテゴリーに属する人々の人数や割合を一定の基準で定め、その基準を達成するために採用や選出のプロセスにおいて割り当てを設ける制度で、先述のアファーマティブアクション政策の一種です。アルゼンチンでは、2021年にトランスジェンダーのための「労働クオータ」が導入され、国や地方自治体に対して、労働力の1%をトランスジェンダーの人々に割り当てることが義務付けられました。このクオータ制により、連邦政府は徐々にトランスジェンダーの従業員を増員しているものの、今のペースでは1%のクオータを達成するまでに18年もかかるとされています。また、障がい者に対するクオータ制もあり、国や地方自治体には4%、ブエノスアイレス市には5%の障がい者雇用が求められています。

南米に広がるマイノリティ支援

アルゼンチン以外にも、クオータ制を導入して多様化を成功させた南米の国々があります。例えばブラジルは、2012年から導入された「民族クオータ制」によって、特定の専門資格を持つ、プロフェッショナル分野に就職する黒人大卒生の数が大幅に増加しました。この制度は、ブラジルの主要な公立大学への入学枠の50%を公立高校出身の学生に割り当て、貧困など社会的に不利な背景を持つ学生を優先する仕組みになっています。そしてこの法律施行から10年を迎えた2023年には、黒人学生の大学進学率が400%増にまで達したというデータが発表されました。アルゼンチンの政策はジェンダーやLGBTQ+の社会的インクルージョンに焦点を当てていますが、ブラジルのケースは民族というカテゴリーに注目することで、社会的流動性と経済的進展の促進に期待が寄せられています。

前進と変革が生み出す反発

アファーマティブアクションは、実際に民族的、宗教的、人種的マイノリティの社会参加を成功させることが研究によって明白である一方で、世論は大きく二分しています。2024年、アルゼンチンはブエノスアイレス自治市内の企業役員に関する「男女平等推進法案」を撤回する決断をしました。この動きは、インクルーシブ政策への反発の表れであり、インクルーシブ言語の使用を禁止する流れといみじくも一致しています。アルゼンチンの大統領であるハビエル・ミレイは、フェミニズムが経済成長を阻害すると懸念を表明しており、この法案の撤回を皮切りに、多様性が後退し始める可能性も出てきました。

職場の多様性を維持・改善していくためには、より多くのインクルーシブな政策を推進し、それらを効果的に実行に移すことが不可欠です。単に職場に自分の居場所があるというだけでは、余り意味がありません。すべての人が安心して働くことができ、自らが尊重されていると感じられる職場を育むためには、自分と異なる文化について学び、同僚たちの個性を尊重することが大切です。そしてすべての同僚に対し、身分や立場に関係なく、同等の敬意を持って接することが必要なのです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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