ミス・コンテスト辞退に見るインクルージョンの今|美の基準とは

南アフリカでは、外国人に対する嫌悪や排除の感情が、国民の中に長く存在しています。かつてのアパルトヘイト(人種隔離政策)では、少数派であった白人が多数派の黒人たちを支配する制度として人種差別を強化し、国民や社会は分断され、黒人たちは深刻な貧困に陥りました。1994年にアパルトヘイトは廃止されたものの、経済的な格差は依然として残り、移民、特にナイジェリア人への敵意と偏見は今も強く残っています。同じアフリカ人としての絆は非常に強いものの、ナイジェリア人はこれまでも差別や暴力が身近にあり、南アフリカ社会からの排除の対象でした。その理由の一つに、ナイジェリア国内の汚職問題、テロなどの治安問題、犯罪件数の多さなど、南アフリカ国民がナイジェリアに対して良いイメージを持っていないという現状があります。経済的な不満に端を発しているケースもありますが、「ミス・南アフリカ」2024年大会に出場したチディマ・アデシナへの激しい中傷は、非常に容認しがたいものでした。彼女への世論の反発は、根強く残る「外国人嫌悪」の感情と、「ヨーロッパの美の基準」が絡み合う南アフリカ社会を浮き彫りにしました。

美しさの他に必要なものは?

ナイジェリア人の父とモザンビーク人の母を持つチディマは、生まれてからのほとんどを南アフリカで過ごしました。そのため、当初彼女がミス・南アフリカに出場することに反対する声は全く聞かれず、彼女が20年以上祖国として愛してきた国の代表となることに、いささかの疑問も上がりませんでした。ところが、彼女がナイジェリア系の祖先をもつことが分かった途端、ネット上で突然激しい攻撃が始まり、彼女の参加資格に多くの人が意義を唱えました。さらに南アフリカ当局が彼女の母親の南アフリカ国籍について事実調査を開始した頃から、事態はさらに悪化の一途を辿ることに。社会のあまりにも激しい反発によって彼女はついに体の不調を訴え、最終的には出場辞退に追い込まれました。南アフリカの地で23年も暮らしてきたにも関わらず、ある日突然チディマは外国人のように扱われ、「南アフリカ人として国を代表する資格無し」というレッテルを貼られたのです。こうして彼女は他のナイジェリア系住民と同様、社会からの孤立と疎外感を味わう状況にまで一気に陥りました。この一連の出来事を通じて、南アフリカ社会に根付く、外国の血筋を排除しようとする現実が、物理的な暴力を超えた形で表面化することとなりました。

表向きのインクルージョンとその実態

チディマが出場を辞退した後、同じく出場をエントリーしていたミア・ルーが、ミス・南アフリカ2024に輝きました。ミアは白人ですが、障がいがある人物による初の優勝となり、「強さと美しさ」の象徴として幅広い称賛を受けました。聴覚障害を持つミアの優勝は、確かにインクルーシブな新しい価値観を象徴するものでしたが、一方で南アフリカにおける美の基準に依然として問題があることも、同時に露呈する形となりました。欧州にルーツを持つミア、ナイジェリアにルーツをもつチディマ、二人とも南アフリカという国から見れば、外国にルーツを持つこと自体に変わりありません。それにも関わらず、欧州系のミアは称賛され、アフリカ系の血を引くチディマは排除される対照的な結果になりました。つまり、未だに美人コンテストは欧米中心主義であり、美の基準もそれにならったものであるということです。南アフリカでは多様性を重視するといいながらも「白い肌」が今も理想とされ、黒人女性たちはそのような苦境に身を置きながら、自らの存在やアイデンティティを社会に認められるために闘い続けています。

人々の希望の光となるチディマ・アデシナ

激しい反発と排除への流れの中で見せたチディマ・アデシナの、「グリット」(不屈の精神)は、南アフリカに生きるナイジェリア人の象徴でもあります。彼女はミス・南アフリカを辞退した後、ミス・ユニバース・ナイジェリア2024で見事優勝を果たすこととなりました。社会の逆風に負けず自らを貫き、自身の可能性を決して諦めない強さを世に示したのです。彼女の身に起こったことは、南アフリカにおいて外国人嫌悪や排除問題が一向に改善されない現状への警鐘です。今後政府や社会が本気でインクルージョンを推進しなければ、こういった言論や実際の暴力、外国人排除に歯止めがかかることはありません。外国にルーツを持つ多くの人々が、社会の一員として認められず、今も孤独と向き合っています。チディマ・アデシナはそんな中にも希望の光として人々の間に存在し、社会からの排除や差別に抗いながらも、自分自身を信じ前進する力を世界に示しています。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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