筆者はこれまで、何年もの不妊治療の末に子供を授かることができず、苦しみをずっと抱えている女性の話を何度となく聞いてきました。妊娠に至らない理由や状況はそれぞれ違いますが、根底にある「不妊の責任は女性が負う」という点が、どの人の場合にも共通しています。しかし、実際には不妊の原因が男性にあることもあり、その割合も決して低くありません。それでも大概の人はこの事実を知らず、不妊は女性に原因があると思い込んでいるのです。
医学的視点から見た「不妊」とは
不妊とは一般的に、1年間妊娠を試みても子供ができない状態を指しますが、これは何も女性だけの問題ではありません。現代は、収入の多い少ないに関わらず、6人に1人(成人のうち約17.5%)が不妊に悩む時代です。ところが妊娠までの過程において、うまくいかない原因は全て女性にあるかのように見られる傾向があります。女性が一方的に責任を問われるのは、不妊だけではありません。避妊や出産後の子どもの健康についても、責任は女性にのしかかってきます。国や文化が違っても、妊娠や子供のことで何か問題が起これば、それは母親の不安定な精神状態に原因があるのではないかと思われてしまうことが多いのです。
同様に、生まれてくる子供の性別まで母親である女性の責任とされることもあり、これは世界中の多くの地域で見られます。しかし、性別は予測もコントロールもできないという事実はあまり認識されていません。そのため、母親が男児をを生むことを周囲から期待されるケースでは、その重圧から女児が中絶の対象になったり、出産後に女児を虐待するなどの事件が起きています。こういった状況は女性たちに男児出産への更なる重圧となり、それが叶わなかった暁には、夫の不貞や家庭内暴力にまで発展してしまうこともあります。
不妊への重圧と期待
このような事象はすべて、昔から続く時代遅れの「性別役割意識」を反映していると言えます。実際多くの国々で、金銭面やそれぞれの社会習慣から、女の子より男の子を大事にするといった文化が今も続いています。女の子は将来結婚する際、相手方に持参金として金銭等を送る習慣が負担となる地域もあります。また女性は出産・育児などで仕事が制限されることもあり思うように稼げないという理由で、女の子を生むことは一家の経済的負担と見なされる傾向もあります。一方で、男の子は一家の後継ぎであり、また両親にとって老後の面倒を見てくれる頼もしい存在と昔から考えられています。女性は子供を持つことで、家族や地域社会の中で「母」としての地位を得たり、妻としての役割を果たしていると見なされることも少なくありません。その点、男性が親になることは、男らしさや権力の象徴と周囲からは受け取られます。昔からの古い考えは時代とともに変わりつつあるものの、未だ多くの文化に根強く残っています。こうした偏見に科学的根拠は何もありませんが、女性にとっては心理的な負担となり、気持ちをどんどん追い込んでしまいます。例えばアフリカのガーナでは、妊娠できない女性は「呪われている」「罪深い」などと親戚中から言われ、社会の中でも、そして経済面でも孤立していきます。ところが男性は批判されることなどほとんどないことから、このような不公平な男女の力関係は続き、「家系を存続させる責任は女性にある」という古い考え方も存在し続けているのです。
男女ともに重要なのは「知ること」
ではこの状況を打開するために、私たちは一体何ができるでしょうか。それはまず、沈黙を破ることです。不妊には男女同等の責任があること、妊娠を可能にする様々な選択肢が存在するということを、世間はまだ十分に理解していません。体外受精(IVF)や代理母といった手段や、養子縁組で子供を迎えるなどの方法があることを社会に広め、それらを利用しやすくすることが非常に重要なのです。これにより偏見は次第に少なくなり、女性の存在価値は「子供を妊娠するだけではない」と女性たち自身が思えるようになります。また、政策の力で生殖医療の認知度と利用率を高め、予防出来ることも多い不妊症への対策を行うのも有効です。国連が実施した各国の事例研究では、国による出生率向上政策と、その国における出生率の動向に相関関係があることが明らかになっています。
もし今この記事を読んでいるあなたが不妊治療を受けているなら、あなたは決して一人ではないということを忘れないでください。この問題について自ら声を上げたり、支援団体の活動に参加したりすることで、周囲からの重圧や満たされない思いを乗り越えていけることを知って下さい。アメリカ合衆国のファーストレディであったミシェル・オバマは、こう言っています。「私は流産を経験した時、これは自分に原因があるのだと思いました。まさか、流産は珍しいことではないとは全く知らなかったからです。この認識不足は、誰もそのことについて話題にしない社会の風潮が招いたものです。だからこそ今、声をあげる必要があるのです。」

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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