Credit: InSapphoWeTrust, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
1960年代から1970年代にかけて、アメリカでは「Cross Dressing」と呼ばれるいわゆる「男装・女装」行為や、ゲイの人々へのアルコール提供は違法とされ、同性愛者への厳しい取り締まりが続いていました。ニューヨークにあるゲイバー、「ストーンウォール・イン」は、1969年6月に発生した「ストーンウォール暴動(Stonewall Riots)」の舞台となった場所です。警察がこの店でLGBTQ+コミュニティへの暴力的な取り締まりを行ったことをきっかけに、全米、そして世界へと、抗議の輪が広がっていきました。そしてこの事件は、同性愛者差別の法律や条例を撤廃することを目的とした組織「ゲイ解放戦線(Gay Liberation Front、以下GLF)」の設立へと繋がり、また、LGBTQ+の人々が平等な権利を求める「プライド運動」の起源ともなりました。それから30余年の時を経たオバマ政権下の2016年、ストーンウォール・インとその周辺地域は、LGBTQ+関連の史跡としてアメリカ合衆国国立記念碑(Stonewall National Monument)に指定されました。しかしトランプ新政権へ移行後、このストーンウォール国立記念碑のウェブサイトに異変が起きます。政府は、トランスジェンダーやノンバイナリーの人々に対する連邦政府の保護を撤廃し、その関連情報を政府系ウェブサイトから次々と削除。アメリカ政府が運営するストーンウォール国立記念碑のウェブサイトもまた、例外ではありませんでした。また、現在既に広く受け入れられている「LGBTQ+」という呼称の代わりに、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)だけの頭文字を取った「LGB」を使用するよう、政府が強制する動きも出ています。これは意図的に、「TQ+」で表現されるトランスジェンダーやノンバイナリーの人々を除外することを意味します。
運動の先頭に立ち闘う人々
しかし、有色人種のトランスジェンダーやLGBTQ+の人々を抹消しようとするこのような行為は、今に始まったことではありません。自身はトランスジェンダーでありながら、ゲイ男性の権利向上を目指す「ゲイ権利運動」の象徴的存在であったMarsha P. JohnsonやSylvia Riveraも、世間やLGBTQ+コミュニティ内でのトランスジェンダー差別「トランスフォビア」と闘わなければなりませんでした。MarshaとSylviaは、ストーンウォール暴動の首謀者と誤解されることがありますが、それは誤りであることが本人達へのインタビューで語られています。しかし、彼女たちが積極的にその運動に加わったことは事実で、先述のGLFと共に座り込みや抗議活動を行いました。GLFは、男性が女性らしさを誇張した派手な衣装やメイクでパフォーマンスを行う「ドラァグクイーン」やトランスジェンダーの人々を受け入れる、当時では数少ないゲイ組織の一つでした。

Credit: Hank O’Neal, Public domain, via Wikimedia Commons
切り離され取り残されるコミュニティ
ゲイ権利運動が、有色人種のゲイやトランスジェンダーの人々を除外して進んでいく中、MarshaとSylviaはゲイの権利獲得のために闘い続けました。さらに、彼女たちはトランスジェンダーやノンバイナリーの人々を支援する「Street Transvestite Activist Revolutionaries(STAR)」を設立し、特にホームレスのトランスジェンダーの若者に対して、食事や住居の提供などの支援活動を行いました。一部のプライド運動主催者からは、STARを排除するような行為や、トランスジェンダーの人々がデモへの参加を妨害されることもありました。しかしそのような妨害行為などに動じることなく、彼女たちはデモを決行し、人々にトランスジェンダーやノンバイナリーの権利を訴え続けたのです。
Sylviaにとって衝撃的な転機となったのは、彼女とMarshaが支持していた「ゲイ権利法案」から、トランスジェンダーの権利に関する記述が完全に削除されたことでした。この結果、彼女たちは再び社会から取り残されることになったのです。1978年、Sylviaは「Y’all Better Quiet Down(君たちは黙っていたほうがいい)」と題したスピーチ(注)を行い、怒りを込めて民衆に訴えました。「性別適合手術を望むトランス女性たちは、女性解放運動に助けを求めているのではない。彼女たちは、他ならぬSTARに、その気持ちを訴えたいのだ」と。Sylviaはこのスピーチの中で、トランスジェンダーである自分たちがどれだけゲイの権利獲得に向けて献身的に運動してきたか、そしてそのために住む家も仕事も失い、投獄されたことにも触れ、自分たちへの支援が得られないことへの怒りと落胆を吐露しました。

Credit: Roseleechs, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
目指すのはすべての人の解放
当時ストーンウォール暴動にも参加したトランスジェンダー活動家、Miss Major Griffin-Gracyは、2025年初頭までアメリカ合衆国の第2代LGBTQI+人権担当特使であったJessica Sternとのインタビューで、「私たちはコミュニティの外へ押し出され、中を覗くことすら拒まれたように感じた」と語りました。さらに「社会はトランスジェンダーの人々がこの世からいなくなるのを望んでいるかのように思える」とも述べています。現在、トランスジェンダーをはじめとする、多様な性のあり方を持つ人々は、企業の採用における差別的な慣行や、反トランスジェンダー法案の増加など多くの困難に直面しています。そしてLGBTQ+コミュニティ内には、依然としてトランスフォビアや人種差別が根強く残っており、中には「トランスジェンダーの権利運動を行えば行うほど、逆に精神的に追い込まれれる」と感じている人たちもいます。しかし、トランスジェンダーの人々のこれまでの努力がなければ、現在のLGBTQ+コミュニティが勝ち得た権利は、到底存在しなかったかもしれません。「ある一部の人々の解放が実現しても、すべての人が解放されなければ、真の自由と平等は存在しない。」これは、イラストやグラフィックデザインを手掛けるアメリカ人アーティスト、Micah Bazantの言葉です。この言葉の通り、真の自由と平等は、すべての人々が解放されてこそ初めて実現するものなのです。

Credit: DIE LINKE Nordrhein-Westfalen, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
(注)このスピーチには一部過激な表現が含まれます。閲覧の際はご注意ください。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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