私は韓国に生まれ、ジェンダー役割が明確な「儒教の価値観」を重んじる家庭で育ちました。そのため、祖母からはよく「男は台所に立つものではない」と言われたのを思い出します。さらに兵役により軍隊に所属していた時は男性中心の世界であったため、リーダーシップに対する私の考えやスタイルは、知らず知らずのうちに男性主導の価値観に染まっていました。当時の私には、「多様性」という概念はあまり馴染みのないものでした。しかし、趣味で学んでいた日本語がきっかけで海外文化への関心が高まり、やがてエンジニアとして、日本のある上場企業で働く機会に恵まれました。
多国籍の職場で学んだ多様性推進への課題
来日し、新しい環境での生活によって、私の「多様性」に対する考え方は大きく変わりました。数万人規模の従業員が所属する組織で、多国籍なチームの一員として働く中で、多様性の意義に初めて触れることができたのです。しかしその過程で、大きな壁にぶつかることになります。韓国に伝統があるように、日本にも独自の伝統文化が残っており、当時の配属先はまだ多様な意見を十分に受け入れる環境にはありませんでした。人材の多様化を期待されて入社した私でしたが、入社当初は自分のユニークな経歴を評価してもらうよりも、会社の文化に同化しようと努めていました。日本語に堪能で日本文化にも精通している外国人社員として、自分をその文化に合わせることを優先したというわけです。そのため、他のメンバーとは異なる私の経歴は社内であまり認識されず、唯一高く評価されたのは持ち前の積極性だけでした。こういった経験を通じて、韓国と同様に日本の主流文化もまた、本当の多様性を受け入れるには越えるべきハードルがまだあると考えるようになりました。この気づきが、「多様性の本質とは何か」を探求するきっかけとなったのです。
出向経験によるDEIへの価値観の変化
その後、私は現状とは異なる環境でさらなる経験を積もうと、社内で募集していたスタートアップへの出向プロジェクトに参加することを決めました。その結果、DEIに関する啓発活動を通じて、社会問題の解決に取り組むグローバルメディア・コンサル企業「ラーニングサイクル社」への出向が決まり、現在に至ります。多様な国のメンバーで構成されたチームと協働することで、職場におけるDEIの理解が格段に深まったのは言うまでもありません。私は、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)一つ一つを実際の仕事と結びつけることから始め、それぞれの社員の異なる経歴を尊重することで、自分の価値観自体が成長し進化するのだと実感しました。
ラーニングサイクル社への出向期間中は、DEIセミナーやイベントにも頻繁に参加しました。また、日本の大企業の人事部の方々との打ち合わせを数多く行い、DEI推進についての現状や課題を学び、マイノリティの人々や企業が直面する問題をより具体的に理解できるようになりました。

こういった経験が、日本では「マイノリティ」である自分の立ち位置を改めて考え直すきっかけにもなり、私の成長過程において大きな転機となりました。私たちが自分らしく生きるためには、マジョリティとマイノリティの双方が相互理解に努め、お互いに歩み寄る努力が必要という気づきに辿り着きました。この意識の変化が、「インクルーシブリーダー」への第一歩を踏み出す道を開きました。
こうして新たな視点を持つことができた私は、多様性に関して日本が抱える特有の課題をより深く把握しようと、懸命に努力しました。日本では、DEIの議論は主にジェンダーギャップに焦点が当てられることが多く、女性たちは公平な権利を求めて日々努力しています。しかし、いずれの場合も「マジョリティである男性の理解不足」が根幹の問題であることが分かってきました。男性側からの、「女性は既に十分活躍できているじゃないか」といった無理解な発言に女性たちが失望することも多く、また女性の社会進出支援の活動が単なる数値達成や表面的な取り組みにとどまってしまうケースなども実際に見ています。本当のエンパワーメントには、女性たち自身の努力だけでなく、リーダー層を含む多数派の男性の積極的な関与が不可欠であると私は考えます。
「多様性」に対する考えを見直す中で、私はラーニングサイクル社が推し進める「家庭における公平性(equity at home)」にも意識を向けるようになりました。多様性を受け入れるための変化は、職場や社会の前に、まず家庭から始まるものです。私は、母や妻、姉といった女性の家族に対する認識や偏見、そして彼女たちへの言動に、自分の価値観が色濃く反映されていることに気づきました。私が家庭で積極的に家事を担うようになってからは、家庭内のジェンダー役割に対する固定観念が少しずつ変わり、以前より満ち足りた日々を家族と共に過ごすことができています。
インクルーシブな組織づくりに貢献する使命
DEIは短期的な施策ではなく、継続的に取り組むべき課題です。出向期間が終わり、私は間もなく元の組織に戻る予定ですが、その際には以前の自分とは異なり、「DEIは単なる施策の一つではなく、文化として根付くべきものだ」という新たな視点を持ち帰ろうと心に決めています。若手社員や外国人といったマイノリティが活躍できる環境を整え、現場からの変革と経営層からの推進といった両方の取り組みで、インクルーシブな組織文化の変革を推進したいと強く願っています。
多様性とテクノロジーを融合し、「DEIの伝道者」としての役割を果たすこと。様々な経験や気づきを通じて、自分がそうありたいと願う気持ちは一段と高まりました。これからも多様な視点を受け入れ、新たな挑戦を続け、異なる意見を尊重しながら歩んでいく。そして、「意見の多様性」を受け入れる社会に貢献することを自身の使命とし、真摯に取り組んでいこうとの思いを一層強くしています。

この記事は弊社で半年間の出向勤務を経験したM. Wooの回想録です。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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