Credit: サンナ・マリン政権下のフィンランド閣僚たち Laura Kotila / Prime Minister’s Office Finland, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
アメリカでは近年、「DEI」という言葉や取り組みが規制対象となりつつある一方で、欧州連合(EU)はヨーロッパ全体でDEIを推進するための仕組みづくりを積極的に進めています。こうした施策は法的拘束力を持っており、違反した企業には罰金が科されることもあります。EUはDEIに対し積極的かつ直接的な関与を行っている点に特徴があり、企業の自主性に任せているアメリカとは対照的です。
DEIを重視するEU
EUはこれまでも、DEI推進の先頭に立ってきました。数々の取り組みを進める中、2023年には、職場におけるDEI推進のための多角的な施策が導入され、ジェンダー格差の是正、人種差別や反ユダヤ主義への対策、ヨーロッパで差別や貧困問題に直面するロマ族の社会統合支援、LGBTIQや障がい者の権利保障など、その範囲は多方面におよびます。
これらの施策に際しては、数値目標の設定に加え、従業員の性別、人種、民族、年齢、障がいの有無など、個人の多様性に関する属性データの定期的な報告が関係機関に対し義務づけられています。また、EUは男女賃金格差の解消を目的とした「給与透明性指令(Pay Transparency Directive)」を制定しました。これにより、求職者への給与情報の開示、従業員が同等の職務に就く他社員との賃金差を照会できる権利、企業や官公庁に対する賃金格差の報告義務などが導入されています。経営側に説明責任を課すことで、給与の公平性確保を図る狙いがあります。

Credit: ストラスブールのEU議会本会議場
Mehr Demokratie, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
しかし、これらの施策が具体的な成果として現れるには、今しばらくの時間が必要です。また、EU全体で適用されている「一般データ保護規則(GDPR: General Data Protection Regulation)」により個人情報は厳しく管理されており、企業による属性データの収集と活用には一定の制限があります。特にフランス、ドイツ、オーストリア、ベルギーなどでは、人種や民族に関する個人情報の収集が法律で禁止され、企業が多様性に関する実態を正確に把握、管理するのは非常に難しいのが現状です。
EU各国の現状と取り組み方の違い
EUには各国共通の制度が多く存在しますが、国ごとに文化や制度は異なり、それぞれが抱えるDEIの優先課題も違います。たとえば北欧諸国は、ワークライフバランスを重視し、女性の社会進出を積極的に支援することで知られています。フィンランドでは2019年、サンナ・マリン首相をはじめとする5人の女性政治指導者が主要ポストを担う政権が誕生し、国内外で大きな注目を集めました。首都ヘルシンキでは、IT業界を目指す女性起業家支援のプログラムも実施されています。しかし一方で、こうした国々では、制度的に人種差別を助長しているという問題点が指摘されています。
2021年には、ハンガリーとポーランドがLGBTIQに対する差別的政策や発言によって国際的な非難を浴びました。その一方で、マルタはLGBTIQの権利を法的に保障し、社会的インクルージョンを積極的に進める国として高く評価されています。フランスでは、宗教と国家を厳格に分離する「ライシテ(Laïcité)」という原則があり、すべての宗教が平等に扱われるべきとされています。しかし実際には、イスラム教徒の女性がヒジャブやブルカを公共の場で着用することが禁じられるなど、差別的な状況も見られます。これに対し、ドイツやイギリスでは宗教に比較的寛容な対応がとられており、キリスト教以外の宗教にも配慮した祝日制度や、空港や大学、病院などの公共施設には祈祷室を設置するなど、多様な信仰に対応できる環境が整えられています。
それぞれがDEIについて考えることの重要性
EUは多様な人々の権利を守り、公平な社会を築こうとしていますが、DEIをルールや制度として定着させ、一貫した運用ができるかどうかは、まだ見極めが難しい状況です。そのため、現在のインクルージョンへの取り組みについて、その適切性を改めて検証する必要があります。例えばクォータ制のように、女性やマイノリティなど特定の属性に基づいた人材を一定の割合で登用する仕組みは、多様性を促進する手段として確かに有効です。しかしその一方で、制度の運用次第では他の有能な人材が不当に排除される可能性もあり、それが果たしてインクルーシブと言えるのか、慎重な検討が必要です。DEIに絶対的な正解はありません。私たち一人ひとりが考え、答えを出すことが大切なのです。

Credit: Josefiina Alanen, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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