育児によるキャリアロスはワーママだけ|働く父親にはメリットに

「母親ペナルティ」という言葉を初めて聞いたのは、社内の女性向けERG(従業員リソースグループ)の集まりでした。男女の賃金格差については以前から知っていましたが、親になることが女性のキャリアにどれほど大きな影響を与えるのかを、数字で突きつけられたのはそのときが初めてでした。母親ペナルティとは、出産や育児をきっかけに女性が受ける不利益のこと。たとえば、給与が上がりにくい、昇進の機会が限られる、育児を優先して仕事への意欲が低いと見なされてしまう、といったものです。対照的に、男性の場合は子どもができることで「父親ボーナス」と呼ばれるプラス材料になることすらあります。

子どもを持つことで格差が生まれる母親と父親

子どもが生まれると、男性は父親として「信頼できる、責任感が強い人」と見られる一方、母親はキャリアや収入が伸び悩むケースが多くなります。つまり、親になることは男性にとっては追い風になり、女性にとっては向かい風になりがちなのです。そのため、母親ペナルティの解消は、男女の賃金格差を縮小する上で不可欠です。ハーバード大学の研究でも、ワーキングマザーは子どもがいない女性に比べて職務能力を10%低く評価され、仕事への意欲も12%低いとされ、採用率は6分の1にまで下がることが示されています。さらに、提示される初任給も平均8.6%低くなっています。一方、父親は子どもを持たない男性より最大10%高い給与を提示されることがわかっています。

仕事以外の責任を抱え女性はキャリアを中断する

こうした偏見の背景には、家庭における役割分担も深く関わっています。2022年のピュー・リサーチ・センターの調査によると、男女の賃金格差が最も広がるのは35〜44歳。この年齢は、多くの女性が子育てを担う時期にあたります。「家庭における公平性(Equity at Home)」が整わず、サポートが十分でないと、女性はどうしても長期的なキャリアよりも、家庭やケア労働に対応するために柔軟な働き方を選ばざるを得ません。積み上げてきたキャリアを一時中断したり、勤務時間を減らしたりするワーキングマザーは多く存在します。また、勤務時間や働き方の自由さと引き換えに、賃金が低い仕事に転職しなければならないケースも少なくありません。実際、賃金格差の約80%はここに要因があるといわれています。

給与面だけでなく、ワーキングマザーは見えない負担も抱えています。家庭での期待に応え、職場でも全力を尽くす中で、様々な周囲の偏見にさらされることもあります。その結果、自己への自信を失い、インポスター症候群に陥るワーキングマザーもいます。また中には、子どもがいることを隠して働く人もいます。実際、アメリカのキャリア支援サービスLiveCareerの調査では、87%の人が差別を恐れて子どもの存在を隠したことがあると回答しており、これは「シークレット・ペアレンティング(Secret Parenting)」と呼ばれています。

母親は子なしの女性同僚より労働時間が短く、父親は長くなることを示すグラフ

アメリカにおける就業者の平均週間労働時間(2020年)
Credit: The Enduring Grip of the Gender Pay Gap, Pew Research Center, Washington, D.C. (March 1, 2023)


女性の仕事を正しく評価するために

日本のデジタルコンサル企業Pencil Incの倉橋美香CEOは、「女性は生涯にわたり数多くのバイアスに基づく困難に直面しながらも、その努力や成果は本来もっと高く評価されるべき」と話します。Pencilでは男女ともに育休を取りやすくし、さらに社員の配偶者に仕事ぶりを知ってもらう「パートナーデイ」というイベントを実施し、家庭と仕事のあり方について語りあう機会を提供しています。「パートナーデイ」は、ワーキングペアレンツを支えるために、職場文化がどう変わるべきかを考えるきっかけとなります。ただし、制度だけでは十分ではありません。日本には手厚い育休制度があるものの、職場に根強く残る古い慣習や考え方の影響で、実際の取得率は依然として低いのが現実です。持続的な変化を実現するには、制度とあわせて職場文化そのものを変えていく必要があります。

まずは「男女の賃金格差」という枠組みだけでなく、「親になることによる格差」にも目を向けることが重要です。データに基づき、成果を時間ではなく成果物で測る柔軟な働き方を設計し、キャリアの最盛期にある人材が活躍し続けられる環境を整えることができます。親であることがキャリアの障害にならず、仕事と家庭の両立を社会全体で支え合える仕組みがあれば、働く親も職場も恩恵を受けられるはずです。ただし、どんな構造的課題も、まず「気づくこと」が第一歩です。問題が認識されなければ、解決の糸口すら見つけることが難しいからです。

父親がテーブルを拭き、息子がソファのクッションを整えている

ゲストライター K. Maseliによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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