Credit: Erudint, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
カナダ西海岸に位置するバンクーバーは、多文化と多様性が融合する、世界でも住みやすい街の一つとして知られています。その中心にあるチャイナタウンは、1880年代に中国から移住した労働者によって築かれたエリア。かつては家賃や生活費が手頃で暮らしやすく、結束力の強いコミュニティが存在し、家族経営の店が立ち並ぶ場所でした。ところが今では、おしゃれなカフェに改装された建物や高層マンションが通りを埋め尽くし、観光客や富裕層が集まるエリアへとすっかり変わってしまいました。この地に長年住む住民たちは、自分たちの街が少しずつ別の場所になっていくような寂しさを感じると言います。
ジェントリフィケーションの光と影
こうした現象は、都市社会学の用語で 「ジェントリフィケーション(Gentrification)」 と呼ばれます。低所得層が多く暮らしていた地域に、街の再開発とともに裕福な人々が移り住み、建物を改装し、地域の店舗や事業を作り変えていくプロセスを指します。この現象は、急速な雇用増加や経済成長の中で自然発生的に起こる場合もあります。しかし、その恩恵を受けるのは主に中流層や富裕層が中心です。彼らは経済的な余裕を活かし不動産や事業に投資したり、ハイエンドな人々が集うおしゃれな地域に移り住み、そこでの生活を楽しみながら、自分が理想とするライフスタイルを実現しようとします。一方、行政やデベロッパーが計画的に投資を呼び込み、街の活気を高め、住民の生活水準を向上させる目的で再開発が進められることもあります。
ジェントリフィケーションの要因や目的はさまざまですが、その結果として生じる現象は概ね共通しています。裕福な住民が増えることで治安が改善され、インフラも整備されるため、他の低所得地域と比較しても犯罪率は低くなります。コロナ禍以降、バンクーバーではアジア系住民へのヘイトクライムが問題となり、こうした差別行為を抑止することも、チャイナタウン再開発の主な理由の一つでした。
街が変われば人もつながりも変化する
ジェントリフィケーションは、さびれた地域に新しい息吹をもたらし、雇用の増加や生活水準の向上を通じて、地域社会に経済成長をもたらします。しかし、すべてがうまくいくわけではありません。生活水準の向上は生活費の上昇を伴うため、以前からその地域に住んでいた低所得世帯は、金銭的に厳しい状況に追い込まれます。以前のような手頃な物件はなくなり、家賃や生活費の安い別の地域に移らざるを得なくなる場合もあります。アメリカの非営利調査機関 NCRC(National Community Reinvestment Coalition:全米地域再投資連合)によると、ジェントリフィケーションが進んだ地域で、かつて多数派だった低所得層の黒人が26万人以上も減少しているといいます。また、1980年以降にジェントリフィケーションの影響を受けた523の地域のうち、約30%は人種構成が完全に変わり、黒人住民が激減しました。これは単に黒人の人口が減ったというだけではなく、長年培われてきた暮らしやカルチャー、街としての個性、そして住民同士のつながりまでもが失われる深刻な事態です。新しい住民を惹きつけたこの地域の多様性という魅力が、その過程で結果的に失われてしまったわけです。

ジェントリフィケーションの発生有無で比較する人種・民族別の人口変化
Credit: Brown University via NCRC
インクルーシブな再開発プロセス
このように、街が変わることの弊害があっても、再開発そのものを否定するつもりはありません。街は、時代や人々の暮らしの動きに合わせて、常に変化していくものです。再開発は時に避けられず、むしろ必要な場合もあります。しかし、そのプロセスを公平に進めることが何より重要であり、同時に、そこに住むすべての人にとってメリットのある街づくりを目指すべきです。そのためには、以前からの住民を決して置き去りにせず、新しい住民と共に街づくりを進めることが大切なポイントです。住民すべてに都市計画への平等な参画機会を提供し、手頃で住みやすい住環境を守ること。地域の歴史を大事にし、そこに根付くローカルビジネスを支援する仕組みを整えること。これらはいずれも欠かせない要素です。そして忘れてはならないのは、街をつくるのは「人」であるということ。だからこそ、変化の中でも、すべての住民がその場所にとどまり、幸せに暮らし、この街の一員であると実感できるよう、配慮して進めることが重要なのです。

ゲストライター Z. Dangによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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