ホラー作品の日常化する性暴力表現|制作陣に求める意識改革

映画やゲームなどのストーリー性のある娯楽には、複雑なテーマやタブー視されがちな問題に切り込み、人々の関心を引きつける力があります。一方で、強いインパクトや演出効果を狙い、女性に対する身体的、性的な暴力が繰り返し描かれることで、観る側がそうしたシーンに無自覚のうちに慣れ、被害の深刻さが薄れてしまう危険性もはらんでいます。性別を理由に女性を標的とする殺人「フェミサイド(Femicide)」は、現在世界各地で増加傾向にあります。全米最大の性暴力反対組織である「Rape, Abuse, and Incest National Network(RAINN)」によると、女性のおよそ6人に1人が性的暴行未遂または実際の被害を経験しています。その被害者のうち未成年の82%、成人の90%は女性です。

男性中心の製作陣が描くレイプ

女性へのジェンダーに基づく暴力は、政治の場やニュースで報じられる事件、映画やドラマのエンターテイメントなど、日常のあらゆる場面で目にします。その中で注目したいのが、2019年時点で、ホラーや恐怖映画に携わる制作スタッフのうち、女性はわずか17%に過ぎないことです。つまり、女性を性的暴力の被害者として描き、性的な演出を多用するこれらの作品は、主に男性によって制作されているということになります。ほとんどの男性は、女性が受けるような暴力を被害者として実体験することがないため、恐怖感の描写自体が脚色され演出的となり、レイプをめぐる誤ったイメージを助長しています。

背景には性暴力を普通ととらえる風潮

性暴力被害者の経験を十分に考慮しないまま作品が作られることで、「レイプカルチャー(Rape Culture)」と呼ばれる社会的風潮が一層強まります。レイプカルチャーとは、女性に対する性的暴力や虐待がまるで日常的で普通のこととして扱われ、その深刻さが軽視される状況を指します。女性蔑視を意味する「ミソジニー(Misogyny)」が存在する限り、こうした傾向が解消されることはありません。アメリカの政治の場では、レイプ事件について語られる際、「本当の」「実際の」といった形容詞を加えることが少なくありません。これは、「性的被害の多くは疑わしく信憑性に欠ける」という認識が根底にあるため、本当に起きた事件だとあえて強調する必要があることを暗に示しています。また報道においては、性的虐待をまれな事件としてセンセーショナルに扱い、被害者ではなく加害者に焦点を当て、社会の関心を煽る手法が目立ちます。

合意のない性交が正当化されると考える人の割合を示したEUの地図

特定の状況では同意のない性行為が正当化されると考える人の割合(%)
Credit: Eurobarometer, CC BY-ND 3.0, via Statista


オンライン空間で強まるミソジニーと暴力

昨今、仕事や娯楽の多くがオンラインに移行する中で、インターネット、とりわけゲームの分野において、女性へのジェンダーに基づく嫌がらせや性的暴力が黙認され、助長されている現実は看過できません。こうした状況が常態化していることを危惧し、活動家たちは政府に対し、オンライン空間で子どもたちに広がるミソジニー的な思想や行動への対策を求めています。実際、近年では子ども同士による性的暴行も増えており、イングランドおよびウェールズでは加害者が未成年であるケースが40%も増加しました。こうした現実に加え、「No Mercy」や「Rape Day」のように、性的暴力や近親相姦さえも娯楽的な要素として扱うゲームが企画される状況を考えれば、レイプカルチャーが今なお根強く存在していることも不思議ではありません。

一方、レイプや性的暴力というテーマを、被害者の視点に立って描くことには意味があります。単なる演出として利用するのではなく、被害者の声を丁寧にすくい上げ、虐待の苦痛を誠実に描く作品には、確かな意義が存在します。例えば、映画「Teeth」は、女性が過度に性的対象とされる社会に生きる少女の視点から、恐怖や暴力が日常に組み込まれる現実を描いています。女性の恐怖や被害を娯楽として扱うのではなく、安全な居場所が存在しない社会を浮き彫りにしたホラー作品です。またインディー系ホラーゲーム「Mouthwashing」は、宇宙空間に閉じ込められたクルーの物語を通じて、職場における女性への嫌がらせや軽視がいかに日常化し、見過ごされているかを巧みに描いています。総じて、作家や監督、クリエイターには、その性的暴力というテーマをなぜ作品に盛り込むのかを自ら問い正す姿勢が求められます。もし観客への刺激だけを目的にそのシーンを描こうとしているならば、その表現が誰かの苦痛の上に成り立っているという事実から目をそらさず、表現方法を今一度、考え直す必要があるのではないでしょうか。

性的暴力防止のメッセージが書かれたTシャツを着てイベントに参加する男性

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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